2023年度の新任教員インタビューでは、竹中歩教授(社会学研究科)を取材。専門の国際社会学や先生の研究についてお話を伺った。
―先生の研究内容について教えてください。
国際社会学は、グローバル化の中での越境的な人口移動、またそれらに付随するさまざまな現象(エスニシティ、人種問題、コミュニティーが形成・再構築される過程、移動に関する不平等の問題など)を社会科学的にリサーチする学問分野です。要するに、どのような人々が、どこからどこへ動くのか。また、どのような人々が「動ける」のか。また、「動けない」のか、「動かない」のか。どのような人々が移動のための手段、資源、ネットワークを持っているのか、持っていないのか。これらのパターンが、人々のアイデンティティーやエスニシティ、社会移動とどのような連関を持つのかということが現在の主な研究内容です。
また、グローバルな動きの中では、ヒト以外にモノも動きます。もしくは、モノが動くからこそヒトが動くということもあるでしょう。その中で、現在はとりわけ「食文化」の動きに関心を持っています。移民の人々のエスニシティの表出やアイデンティティーのあり方、もしくは文化適応・文化融合の現れとして「食文化」のあり方やその動きを分析対象としています。
―どのようなきっかけで研究者の道に進むことを選んだのですか。
きっかけは偶然でした。自分が取り組んでいた研究がとても面白くって、やめられなくなってしまったという(笑)。実は最初から研究者になろうと思って博士課程に進んだわけでもなく、大学院に行ったわけでもありません。面白いと思ったことを続けてきた結果として、今の研究者の私がいます。
また、教員になって、研究だけではなく、教えることもすごく楽しいということに気が付いたんです。学ぶ上で一番良い方法は、教えることだと思います。大学に集まる学生たちの文化や考え方、バックグラウンドはさまざまです。参加型の講義をしているうちに、学生さんが考えたアイデアなどを聞きながら、それが活きるような形で議論が発展するのは、私自身にとっても本当に勉強になります。このようなことを発見したのもあって、今に至ります。
―研究を行う上で大切にしていることはありますか。
研究に協力してくれている人々へのリスペクトと感謝です。私はエスノグラフィという技法を取り入れて研究を行うことがあります。例えば、過去の研究ではペルーに行き、実際に移民コミュニティーやその活動へ参加し、人々と共に生活しました。実際に移民の人々と会って話して、時間を共有することを通して、移民の生活や彼らのアイデンティティー、日々の苦労などを実感として学びとるというのが、エスノグラフィの方法です。その際に大切にしていることが、先ほど述べた人々へのリスペクトです。研究者として、分析対象からは距離を置いて、客観的に物事を見るべき立場にいますが、やはり相手も自分も同じ一人の人間なので、人を大切にしたいと思います。最終的には研究を通して、何らかの形で研究の対象となっている人々や社会に対して良いインパクトをもたらすことができたらと考えています。
―国際社会学の魅力や面白さはどういったところにありますか。
自分たちが日々当たり前だと思っているようなことを問い直すきっかけを与えてくれることです。慣れ親しんだ自分の世界から一歩外に出てみることによって、得られる新しい気付きは多いです。考え直すことは学びの上でも、研究・教育の上でも重要だと思いますが、その手助けの一つとして、国際社会学があります。
―講義ではどのような内容を扱っていますか。
移民研究、国際人口理論、エスニシティ、人種エスニックコミュニティー、ナショナルアイデンティティー、「人種」や「民族」という概念はどこから来たのか、といったテーマを主に扱っています。「エスニシティ」などは、日本の学生の皆さんにとってはまだなじみのない話題であるかもしれません。ですが、あえて考えてみてほしいテーマです。自分とは異なる社会的背景を持つ人々の立場に立ってみるということは、良い学びになります。そういうことを考えながら授業を行っています。
―最後に、一橋生へのメッセージをお願いします。
自分の環境や身近なところを超えて、国際的な視野を養う機会をたくさん持ってもらいたいです。必ずしも海外へ出る必要はありません。例えば授業の中でいろいろな人々と議論したり、交流をしたり。または本を読んで勉強するのもいいですし、関連する授業を履修してみる、もちろん留学に行くのも良いです。国際的な視野を育む方法にはいろいろな形があると思います。そういった機会を大切にして、学びをぜひ深めていてもらいたいです。そして、私自身も学生の皆さんとの交流や意見交換を通じて学び取りたいと思っていますし、お互いに学んでいける機会を作れればいいなと思います。