教員インタビュー企画 市原麻衣子教授

 ―自己紹介をお願いします。
 市原麻衣子です。法学研究科と国際・公共政策大学院で国際政治学を教えています。また、国際交流担当の副学長補佐として、海外の大学との共同研究推進にも関わっています。さらに、グローバル・ガバナンス研究センター(以下、GGR)で「民主主義・人権プログラム」を率いています。研究領域は、民主化支援と影響工作です。

 ―民主化支援と影響工作とはどういう分野ですか。
 民主化支援というのは、国際政治学と比較政治学の学際領域にある分野です。端的に言えば、ある国に民主化を目指す政治的な動きがあるときに、そこに様々なアクターがどのように関わっているのかを分析するものです。私は特に海外のアクターが行っている支援に注目しています。具体的には外交的援助、法整備支援、経済的援助などです。
 影響工作というのは、一部の権威主義国が民主主義社会でプロパガンダや偽情報の拡散、メディアや政治家の買収などによって影響を及ぼそうとする活動です。権威主義国のアクターたちは、自国内で民主化を求める動きが発生するのを抑える方法の一つとして、民主主義社会を分断して、民主主義の魅力を失わせようとするわけです。2016年のアメリカの大統領選にロシアが介入したことなどが典型的な例です。

 ―民主主義と人権に興味を持った理由を教えてください。
 もともと人権分野に関する関心は強かったです。高校時代から様々な本を読んでいましたし、学部(獨協大学外国語学部)時代に所属していたテニスサークルでは女子部員への差別に反対する人権運動を一人で行いました。
 それから、東南アジアの政治状況に関心を持ったのも大きいと思います。祖父がもともと元建設省(現在の国土交通省)で東南アジアのODAに携わっており、マレーシアやタイに住んでいたこともあった影響で、子供のころからよく東南アジアの話を聞かされていました。特に私の学生時代は、東南アジア、とりわけ現在の東ティモール(当時はインドネシアの統治下にあった)の政治状況が非常に悪い時期でした。その影響もあって学部の卒業論文はインドネシアの東ティモール併合について書きました。
 私が学部を卒業したのが1999年なのですが、その前年にインドネシアの民主化があって、アメリカやヨーロッパ諸国はかなり積極的に支援をしていたのですが、同じアジアの国なのに日本からの支援は手薄でした。それがなぜなのか疑問を持ったのが大きな契機でした。
 それからわたしはアメリカへ留学して、最終的にそちらで博士号を取ったのですが、当時のアメリカの空気にも大きく影響を受けました。私がジョージ・ワシントン大学の博士課程に進んだのが2004年だったのですが、当時のアメリカは、2003年のイラク戦争のあとイラクをどうやって民主主義国家として再建するかという話でもちきりでした。そこで、民主主義国家建設にあたって海外のアクターがどう関わるかを研究テーマに設定しました。それがそのまま現在の研究につながっていますね。

 ―民主主義・人権プログラムをはじめられた理由をお聞かせください。
 GGRには3つのプログラムがあり、民主主義・人権プログラムはその一つです。プログラムを始めたきっかけは、日本には、大学生が民主主義や人権に関心を持った時に、それをより深く学べる場が少ないと気付いたことです。日本はNGOも弱いし、企業もそんなに人権活動に力を入れておらず、この分野を深く掘り下げる大学院も意外に少ない。そこで、きちんと人権に関して、学び考えられる場所がここにあるんだということをわかってもらいたいと思って、このプログラムを始めました。

 ―プログラムではどんな活動をされていますか。
 大きく3つの活動を柱にしています。1つはセミナーです。毎月大学の内外から有識者を招き、専門分野に関して話をしていただいています。
 2つ目は出版です。GGRにはワーキングペーパーとイシューブリーフィングという二つのシリーズがあり、様々なテーマについて学内外の方々に書いていただき、出版しています。特に私のプログラムでは民主主義と人権に関する問題で、日本でまだ十分に知られてない分野を紹介したり、新しい分析や研究を発表したりしています。
 3つ目は若手の育成です。学生をアシスタントとして雇い、彼らに出版や研究支援の経験を積んでもらっています。また2月からは、全国の大学生を選抜して、偽情報に対抗する言論形成のためのトレーニングを始めています。

 ―最後に学生たちへのメッセージをお願いします。
 一橋の皆さんには、空気に流されずに自分のイニシアティブを発揮してほしいと思っています。日本人の学生は周りの様子を見て、例えばマスクを外すか、意見を言うかなど、まず誰かが動くのを見てからそれに合わせようという感じが強いですよね。そういう癖がついてしまうと、国際会議などで発言がしにくくなるし、なにより権力にコントロールされやすい社会になってしまって、民主主義の基盤が育っていかないと思います。間違ってもいいので、積極的に発言・行動することを大事にしてほしいです。

今回インタビューに答えていただいた市原麻衣子教授。