長年にわたり多くの一橋生に愛されてきた居酒屋「やきとり一松」。しかし一部の学生しか小平に縁がない現在は知名度が低下中。昔の香りを残したまま今日も変わらず灯りをともす一松の魅力を探る。

 一橋大学小平国際キャンパスから歩いて5分ほどのところに、「やきとり一松」はある。約30年の歴史があるからか、お店はどことなく懐かしい雰囲気だ。1階にテーブル席が3つ、2階に座敷があるだけの小さなお店で、松岡真言さんと豊子さんの夫婦が二人で営む。

 お店はもともと小平にあったが、国立へのキャンパス統合に伴い国立へもお店を出し、一時期は小平店と国立店の二つがあった。小平店は豊子さんが、国立店は真言さんが担っていたという。しかし真言さんが体調を崩して以来、小平店に再び一本化。今に至っている。

 真言さんは御年81歳。もともと企業で営業をしていたが、脱サラしこのお店を始めた。「客を客として扱わないから怒られたりもしたな。昔は夜遅くまで一橋生とお店で議論をしていたよ」と笑う。豊子さんも思い出を楽しげに話す。「一橋寮生とはよく一緒に旅行に行ったのよ」。店内に置いてあるアルバムには学生の写真が数多く並ぶ。

 昔の一橋生は今よりずっと元気で、一松でも騒ぎすぎて真言さんが怒ることもあったというが、基本的にはある程度好きにやらせていたそうだ。「今は昔に比べて社会が寛容じゃなくなってるよなあ」と真言さん。

 お店のウリは白菜鍋。「若い人に野菜をいっぱい安く食べてもらうために」考案したものだという。白菜と鶏肉しか入っていないシンプルな鍋だが、これが美味しい。白菜鍋に限らず、一松の料理は量が多くて安い。お金がない学生にとっては嬉しいが、どんぶり勘定すぎて少し不安になるほど。どこまでも学生想いのお店だ。

 大学の機能が国立に集中した今、小平に縁があるのは体育会、サークルに所属している学生や、寮生くらいしかいない。しかし、一部の体育会 やサークルは、依然として一松の根強いファンだ。それを反映するように、店内には体育会やサークルのポスターが多く貼ってある。また、毎年のクリスマスには、独り身の一橋生が集い傷を舐めあう「クリスマツ」という飲み会が盛大に開催されている。

 もちろん一橋の卒業生も、よくお店を訪れる。最近だと子どもを連れてくる人も多いそうで、豊子さんはそれを楽しみにしているという。記者も以前一松を訪れた際、卒業生の集まりと出会い楽しく交流したことがある。今も一松の魅力は衰えていない。

 インターネットが普及し、「人と人との直のつながり」の希薄化が叫ばれて久しい。食事に関しても、チェーン店の牛丼屋やラーメン屋のような「話さない店」が人気だ。記者自身もそういったお店はよく行くが、一松のようなお店に行くと、なんだかほっとする。たまにはこういうお店、どうですか。