この夏季休業期間、春に引き続き2度目の海外留学モニターが実施された。今年の学長選考で話題になった海外留学必修化の試行として行われたモニターであるが、参加希望者は増加傾向にある。実際に参加した学生は留学体験を通して、何を学び、何を感じたのだろうか。

 本学は、平成30年度以降の新入生全員を対象とした海外短期留学必修化を目指し、その短期留学の試行として海外留学モニターを実施している。参加者はアンケート回答や報告書作成、留学後のTOEFL受験が義務付けられ、短期留学の教育効果、運営管理、危機管理等に関する情報が収拾される。

 そもそもなぜ本学は、海外短期留学の必修化を目指すのだろうか。教育・学生担当副学長の落合一泰氏に話を聞いた。落合氏は、ヨーロッパで推進されているボローニャ・プロセス(注)に触れ、「ヨーロッパの学生は国境を超えて高等教育を受け、その留学経験のなかで国際的な感覚を育んでいる。これがグローバル時代の潮流。日本でも、国内外問わず学生のモビリティを高めることが今後ますます重要になる。本学の学生には、21世紀世界でリーダーシップを発揮できるよう、海外に出て国際的な感覚を若いうちに磨いてほしい」と話す。

○留学モニターの実態

 さて参加者は一体どのような海外生活を送ったのだろうか。まず学習面についてだ。派遣先の大学ではテストがあり、参加者はその成績に応じてクラスに振り分けられる。授業のコマ数は1日あたり2~3コマで、授業内容は大学やクラスによって千差万別だ。例えばアカデミックライティングやグラマーという基本的な内容から、大学によってはプレゼンテーションや留学先の国の文化を学ぶ授業もある。授業の形式はクラスメート同士とのディスカッションが中心で、本学におけるPACEや英語コミュニケーションスキルのような授業だったという。

 授業が終われば、現地学生との交流が時々ある他は、自由な時間が待っている。「好きなバンドのライブを観た」というオーストラリアに留学した男子学生Aさん(商1)や、「ロンドン市内を観光し、教会やパブに行った」というイギリスに留学した男子学生Bさん(商1)など、各参加者が思い思いに活動している。

 海外での滞在形態はホームステイと学生寮の二つがある。今回ほとんどの参加者がホームステイだったが、その生活については「全体的に満足。食事もおいしかった」という感想がある一方で、「ホストファミリーや他の留学生とあまり会話が弾まなかった」「食事がチープで物足りなかった」という声も聞かれた。また移民が多い国では、移民系家庭がビジネスでホームステイを受け入れていることがある。今回オーストラリアに留学した学生の中にも、ホームステイ先が欧米やアジアからの移民系家庭であった学生は少なくない。

○短期留学の効果と今後の実態

 こうした留学生活を送った参加者は、モニターにどのような問題点を見いだしたのだろうか。彼らが口を揃えて指摘するのは、授業クラスにおける日本人の多さだ。ある学生は、「授業や大学で接する学生がほとんど日本人で、英語に接する機会が予想していたよりも格段に少なかった」と不満をもらす。また他の学生も、「授業内で会話が詰まった時や休憩時に、つい日本語を使ってしまった」「クラスのレベルが低く、英語を学ぶには内容が不十分。今後の留学も考えているが、同じような内容の短期留学には行きたくはない」と言う。語学学習の面からみれば、全員が満足のいく内容ではなかったようだ。

 この留学体験に対して参加者が持つ印象は様々であるが、多くの学生が次のステップに進む上で良い経験になったと感じている。オーストラリアに留学した男子学生Cさん(商1)は、「外国人と英語でコミュニケーションをとることができるようになり、留学後の英語学習を考える上で良いきっかけとなった」と言う。またBさんは、「日本人とは違い積極的に発言する他のアジアの学生を見て、積極的な姿勢の大切さを学んだ。日本語で不自由なく生活できる環境であったが、自らの語学力向上のために、積極的に英語を話した。今後も英語を話す機会を自分からつくっていきたい」と抱負を語る。落合氏は、短期留学について、「留学で語学的なスキルを強化することはもちろんだが、海外生活を経てはじめてわかるグローバル世界の感覚を学生に感取してほしい。そのような、学生のポテンシャルを引き出す機会を用意することは、本学の使命でもある」と話す。

 海外短期留学の必修化に向けて課題は多く残されており、必修化に対する批判も根強い。ただ落合氏によれば必修化は決定ではなく、現在はあくまで「全員留学」を「目指す」ための試行段階だという。「これまで派遣した合計三百人の学生モニターの満足度は高い。『全員留学』に向けて課題をみつけ解決を図るための試行を続け、判明した問題点を一つ一つ修正する。こうした試行を繰り返し、より良い形態を模索していきたい」と落合氏は今後の展開を語る。

 「全員留学」を実現するには、依然として課題解決と学生を含めた合意形成が求められる。そのためにもモニターは今後も継続的に実施してほしいところだ。特に今後早い段階で、今回不満が多かった語学学習の面で満足度をあげることは必須だろう。

 

(注)ボーロニャ・プロセス
1999年のボローニャ宣言に端を発し、欧州高等教育圏の構築を目指す一連の取り組み。ボローニャ宣言の主な内容は、①理解しやすく比較可能な学位制度を採用、②学士課程と大学院課程の2段階で大学構造を統一、③単位互換制度を各国で導入、④学生・教員の自由な移動の障害を除去、⑤欧州の視点に立った高等教育を通じて欧州の一体化を目指す。