【ルポ】国会前より−学生デモの価値

2015-07-デモ 集団的自衛権行使を含める安保法案が国会で審議され、各メディアは連日それに関わる報道で賑わう。ここ最近、この安保法案に反対して結成された学生団体「SEALDs(シールズ)」が、一部新聞等で大きく取り上げられている。彼らは毎週金曜日に国会前で「大規模な抗議行動」(7月12日付朝日新聞)を開催しているという。一方、大学内では、若者の政治関心の向上を感じることはあまりない。学生デモの実態を探るべく、国会前を取材した。

 7月10日金曜日、午後7時。東京メトロ・国会議事堂前駅の1番出口を上る。車道を挟んで議事堂を取り囲むように、デモの集団が先まで続く。「9条護持」「原発廃炉」「新基地移設反対」。参加者がプラカードを掲げ、声を上げる。参加者の平均年齢は高めだ。

 シールズのデモ会場を探すべく歩みを進める。進む方向を間違えたようで、議事堂周囲をぐるっとひと回り歩いたところで、正門前に混雑した一帯が見えてきた。よく見ると、若干ながら若者が多いように思える。参加者に尋ねてようやく、これがシールズの集団であることを確認する。

 デモ開始前、明治大学1年の学生に話を聞いた。ツイッターで情報を知り、この日初めてデモに参加した。「デモによく参加していた両親の影響もあり、かつてから政治に興味はあったが、活動に参加する第一歩が踏み出せなかった。しかし今回の安保法制は、若者が大きく影響を受けるので、後悔しないためにも国会前に来た」

 午後7時半、シールズの学生が小さな台に立ち、演説を始める。彼らはスマホに映された原稿を見つつ、話し言葉で叫ぶ。集団的自衛権は憲法違反だとして、安保法制の撤回を訴える。演台を取り巻くように多数の報道陣がカメラを構える。複数の照明が立てられ、周辺はとても明るい。

 時間が経つにつれ、シールズを囲む聴衆は増えてゆく。演説の中で、参加者が1万5千人を超えて数えられなくなったことが発表されると、大きな歓声が起こった。

 参加者が全員若者というわけではない。シールズの集団は議事堂正門前の演台を起点とし、東側へ向かう歩道上に続いている。演台の周りこそシールズの中心メンバーと思わしき若者で固められているが、遠くなるにつれ若者の姿はまばらとなり、聴衆の年齢は高くなる。先ほどまで別集団のデモに参加していた大人たちが、若者の演説を聞きに集まっているようだ。

 午後9時を過ぎ、演説と熱気は最高潮に達する。背中は汗でぐっしょりになった。「憲法守れ」コールのビートが徐々に早くなってゆく。午後10時前、拍手喝采でデモは終了した。

 シールズの活動手法は現代的だ。SNSを活用した呼びかけ、洗練されたデザインのプラカード。シュプレヒコールもラップ調にアレンジされている。敬遠されがちだった政治問題に若者が関わるための工夫が見える。

 安保法案を、未来の日本に直結する自分の問題として捉えて意見を持ち、若者にも参加しやすい手法を用いて活動していることは評価できるだろう。それが規模拡大に大きく貢献している。

 しかし、シールズがメディアでもてはやされているからといって、シールズの拡大が若者の政治への関心が高まっていることを示しているとはいえないだろう。まして、シールズの主張が大多数の若者の考えを代弁していると考えるのはもってのほかである。

 偶然にも、デモを見に来た本学の大学院生に出会った。彼は台湾からの留学生で、08年の来日当時、日本の学生の政治意識の低さに驚いた。「若者がデモに参加するようになったことは評価している。ツイッターでの呼びかけも良い方法。だが最も重要なことは、実際の友人たちと話し合うことだ」

 議事堂内で決められることは、日本の未来であり、その主役は若者だ。今後、あらゆる若者が、自分のこととして日本の未来を考えられる状況が生まれるか。それには、主義主張も今いる環境も関係ない。

 シールズの長期的な成功は、意外と私達一人ひとりにかかっているのかもしれない。それは、日本に素敵な未来をもたらす鍵でもあるのだ。