【HASC×一橋新聞合同企画2】大人、飲みにてかく語れり

アメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターの調査によれば、密な間柄の人よりも、弱くつながっている人の方が新規的で高価値な情報を提供してくれる可能性が高いという(「弱い紐帯の強み」と表現される)。要は、長年の親友より、初対面の人の何気ないアドバイスの方が人生に革新的な転機をもたらしうるということだ。

さて、飲みの場では場の雰囲気とお酒の力で普段言えないことを打ち明けたり、そこまで仲良くなかった人と仲良くなれる不思議な力がある。そんなわけで僕は下戸ながら飲み会が好きなのだけど、これを見ず知らずの人たち、それも社会人と一緒にやったらどうなるか。雑な思い付きから、部の同期と絶賛就職留年中の元編集長を誘って華金の神田へと繰り出した。

やることは簡単だ。適当な居酒屋に入って焼き鳥とレモンサワーを注文して、隣の大人に声をかける。これまでの人生を語ってもらいつつ、部員の相談にも乗ってもらう。以下は、4月の肌寒さが残る夜の神田で繰り広げられた、不思議な「弱い紐帯」の記録である。

一組目に声をかけたのは、通信系企業に勤めるSE2人組。おっとりとした雰囲気のおじさんだ。

上:なんでSEになったんですか?
A:僕は特に無いんですけど(笑)。もう20年ぐらいやってて。これからはインターネットだろうって思い付きで始めてから、ずるずるきちゃった。
B:正直、俺も無い。仕事のこととか、そんなに語れないよ(笑)。
花:唐突なんですけど、実は僕去年から就留してて、今も就活中なんすよ。会社を絞り過ぎるってダメですかね。
A:そんな気張って一発目からいいとこ入ろうとしなくてもいいから! 段々といいところに転職していったらいいじゃない。僕なんか今6社目よ!
花:なんすかそれ(笑)。
A:転職って普通は給料下がる方が多いんだけど、僕は給料上げてくれるとこに移るって感じでさ。引き抜かれたり、他社の人と仲良くなって紹介されたりしてたらこうなった(笑)。逆に訊くけど、君は何になりたいの?
花:それが、特にないんですよね。色々受けてみて、取ってくれた会社の中で精いっぱい頑張るとかって考え方もアリかなって最近思います。
A:でもさ、これから先、何が信じられるかわかんないよ。東芝に入ってもああなっちゃうことがあるんだからさ。自分の外側に軸を置いちゃうととしんどくなるから、内側にぶれない軸を持ちなよ!

20年間で6社を渡り歩いて生きてきたおじさんの強靭な「軸」に圧倒されながら、大きな何か(たぶんそれは大企業とか)に身を委ねて生きていきたいと考える自分の受身さが際立つ。

祐:結婚とかされてますか?
A:してるよ。
B:俺も結婚してたけど、離れちゃった。1回就職したけど、辞めてアメリカに留学してそこで出会ったのよ。
祐:なんで離れちゃったんですか?
B:俺は1人でいるのが好きで、その辺合わなくてさ。だったらなんで結婚したんだよって話だけど(笑)。
上:再婚とか復縁とか、考えたりは。
B:無いねえ。今でも全然仲は良いけどさ。彼女は今ニューヨークにいるんだけど、最近も遊びに行ったよ(笑)。神田2

表情は憂いを帯びているが満足げだ。結婚も離婚も乗り越えたおじさんの語り口は清々しかった。
そして気付けば手元のレモンサワーが空いた。お礼を言いつつお代わりを注文して、隣のテーブルの取材に移る。スーツ姿の若い男子4人組だ。

上:これは何の集まりですか?
C:オンラインゲームのオフ会です!チーム結成してからまだ1年ぐらいですけど。え、てか大学生? 何大?
上:一橋です。
D:めっちゃええやんけ!(笑)。就活とか悩まなくてよさそうやな!
花:俺、就職留年してるんで!!
E:よっしゃ勝ったー!!!
上:……社会人何年目ですか?
F:僕だけ4年目で、あとみんな1年目ですよ。

圧倒的に若い。普通に大学の先輩と喋ってるような感じだ。

上:大学時代の思い出とか、どんなのがありますか?
D:カナダに留学してるときに、メキシコ人のかわいい女の子と仲良くなったことかな! でも日本に彼女がいたんで、すんでのところで止めました。
祐:彼女さんはどんな人ですか?
D:地元の人です。彼女いない期間が長かったんですけど、友達に紹介してもらえたんですよ。帰省してた時に写真見せられて、「この人良いね!」みたいな。出会ったその日に告白して付き合っちゃいました(笑)。

「青春」だなー。「青春」だ。次々飛び出す輝かしい思い出。レモンサワーがしょっぱい……。質問を変えよう。

上:僕、割と今ダラダラとすごしてて、社会人になるなんて想像できないんですよね。学生時代と社会人の違いって、どういうところに感じますか?
E:……強烈に思うのは、社会人って絶対に明日が来るんですよ。
上:「絶対に明日が来る」?
E:大学生は辛いときは勝手に大学休めばいいじゃないですか。でも社会人はお客さんとか、その先の自分の生活とか、一日一日に色々なものが懸かってる。「明日」を無しにはできないんです。「社会を生きてるなー、俺」って思うんですけど、それが辛いです。

年齢ゆえに共有できるノリはあっても、社会人と学生は違う。彼我の間の大きな溝が、くっきりと現れていた。

余っていたサワーを飲み干し、挨拶をして席を立つ。アルコールでぼんやりした頭の中に、彼らの言葉が響く。一夜限りの「弱い紐帯」のはずなのに、心がざわついている。大人の余裕や社会人としての責任感なんてものが、彼らのように身に付けられるのだろうか。そしてそれは、「成長」なのか。そんなことを喋りながら、僕たちは華金の神田を後にした。


 

一橋大学の2大メディア系サークル、HASCと一橋新聞のコラボ企画。全3回でお送りします。HASCと一橋新聞の記者が一つのテーマを、違った視点から記事にしていきます。今月のテーマは「飲み」。メディア系サークルに興味のある新入生必見です。ツイッター上では、それぞれの記事のリツイート数で勝負中!

ヒトツマミ記事はこちら⇒ 一橋生とお酒について調査してみた