本学はキャンパスメンバーズ制度に加入している。この制度は、学生および教職員の芸術や文化に触れる機会がより増えることを企図して成立したものだ。本学の学生、教職員は東京国立近代美術館、国立西洋美術館、東京国立博物館、国立科学博物館、国立劇場の入館料などが一部優遇され、一般よりも割安に施設を利用できる。
加入以後、本学の施設利用者は増加傾向にある。例えば東京国立博物館においては、加入二年目には初年度比で44名から308名へと7倍増だった。地理的にこれらの施設群からやや遠い本学にとっても、その存在は身近なものになってきている。
今回、国立西洋美術館、東京国立博物館、国立科学博物館を訪ね、各施設の職員に特別展や常設展の見どころについて話を聞いた。
国立西洋美術館
国立西洋美術館は、実業家の松方幸次郎がフランス近代絵画や彫刻を中心に収集した「松方コレクション」を展示する場として始まった美術館だ。現在では中世末期から20世紀初めまでの約5500点の作品を所蔵しており、常設展にはそのうち約200点が展示されている。
常設展に入ってまず目に飛び込んでくるのは『考える人』などのロダンの彫刻3点だ。前庭にある大きな彫刻を含めて、これらはフランス政府が公認した本物である。次に展示室を順に進むと、作品が西洋美術史を概観できるように年代順に並べられていることに気付く。宗教画が中心だった中世から、時代が移るにつれて徐々に風景画、抽象画が現れるという西洋絵画の変遷をみることができる。
常設展に展示されている絵画や彫刻はガラスケースに入っていないものが多い。そのため筆のタッチが見えるほどの至近距離で生の絵画を鑑賞でき、敷居の高いイメージのある絵画や彫刻に親しみを持つことができる。さ
らに常設展には、展示品に作品解説がほとんどついていないという特色がある。これは西洋美術館が「絵画鑑賞の主体は観る人にある」ということを基本方針としているためだ。
西洋美術館事業担当の古澤さんも、美術館初心者におすすめの常設展のまわり方は「ぶらっと全体を見て回り自分のお気に入りの作品を見つけること」だと話す。古澤さんのお気に入りはカルロ・ドルチの『悲しみの聖母』。聖母マリアが被るマントの深い青色が印象的な作品だ。「自分の好みに基づいて自由に観賞し、お気に入りを見つけてほしい」と古澤さんは呼び掛ける。西洋美術館にはルノワールやモネ、ルーベンスといった多くの著名な作家の作品が展示されているため、自分の知っている作家を探し歩くのも良いだろう。
今回私は初めて西洋美術館を訪れたが、 マリー・ガブリエル・カぺの『自画像』など、お気に入りの作品を見つけることで一気に美術に親しみを持つことが出来た。美術に関する知識の有無に関わらず、自分の感性のまま自由に楽しめる西洋美術館を一度、訪れてみてはどうだろうか。
国立科学博物館
1887年に創設された国立科学博物館は国立唯一の総合科学博物館だ。館内は、「日本列島の自然と私たち」をテーマとする日本館と「地球生命史と人類」をテーマとする地球館にわかれている。6月12日までは特別展として最新の恐竜研究を紹介する「恐竜博2016」が、企画展として科学と社会のつながりを紹介する「生き物に学び、くらしに活かす――博物館とバイオミメティクス」が開催されている。
常設展は一人ひとりがテーマやストーリーをもって見学できるよう、体験コーナーが充実している。日本人と自然をテーマにしている日本館2階には、日本人の生活を時代順に紹介するコーナーがある。しかし、現代人の展示スペースには何もない。実は中に入れるようになっていて、縄文時代や江戸時代の日本人の展示と並んで記念写真を撮ることができる。また日本館地下1階のシアター360(サン・ロク・マル)は、球体のドームがすべてスクリーンになっている。足元や頭上にも映像が映し出され、画面の中に入り込んだような気分が味わえる。
恐竜博2016の目玉は、大型肉食恐竜としては極めて珍しい四足歩行や水中生活が指摘されたスピノサウルスの全身骨格だ。その大きさは全長15㍍あり、異様なまでの存在感を放つ。また、別のブースでは、世界でも少数しか発見されていない恐竜の赤ちゃんの化石が展示されている。3Dプリンターで発声器官を再現することでよみがえった鳴き声を聞くこともできる。
企画展のテーマであるバイオミメティクスとは、生物の形態や構造、機能、能力を模倣して、モノづくりに応用することだ。例えば、オナモミ類の構造は面状ファスナー(いわゆるマジックテープ)に応用されている。将来的には魚たちの障害物を避けて移動する能力を利用して、ぶつからない車の開発が期待されている。生物と私たちの密接な関係を感じさせる展示だ。
科学博物館には、非常に多くの展示がある。なかでも、細部までこだわった大迫力の展示や、実際に体を使って楽しんだり、化石の複製に触ったりできる体験型の展示が多く、幅広い層が楽しめる。十人十色の楽しみ方がある科学博物館で普段できない体験をしてみてはいかがだろうか。
東京国立博物館
現在、特別展「黄金のアフガニスタン―守りぬかれたシルクロードの秘宝―」を開催している東京国立博物館。敷地内には6つの展示館および庭園や茶室といった各種施設が存在し、常設展の陳列総件数は3000件以上にのぼる。
今回の特別展ではアフガニスタン(以下、アフガン)の歴史的問題がサイドストーリーになっている。1979年代、ソ連の軍事介入により国内情勢が不安定になると、アフガニスタン国立博物館(以下、国立博物館)への襲撃を危惧した現地の館員らは、秘宝の一部を大統領府にある中央銀行の地下の金庫に隠した。砲撃による博物館の損壊、文化財の略奪、破壊を繰り返すタリバン政権の崩壊を経た2004年。隠された秘宝の存在は公になり、アフガン文化の復興を祈念して世界各国で秘宝の巡回展示が開始されるに至った。現在、東京国立博物館で行われている特別展は、11か国目となっている。
展示品は前2100年から3世紀までのアフガンの秘宝、および日本国内で保護された流出文化財が五つの章立てで紹介されている。今回の展示について広報室の武田卓さんは「題にもあるとおり、黄金のきらびやかな秘宝が今回の目玉です。アフガンの歴史に詳しくなくとも、展示品がそもそも豪華であったり、細やかな装飾がなされているなど、単純に見ていて楽しめるものになっています。秘宝そのものに対する興味だけでも気軽に観に来てほしい」と話した。展示は6月19日(日)までとなっている。
東京国立博物館は非常に多くの展示館などから構成されており、一度に全て見て回ることは難しい。しかし、それは「より多くの興味に対応することができる」と言い換えることもできるだろう。広報室の宮尾美奈子さんは「総合文化展では頻繁に展示替えを行います。浮世絵等の傷みの早い展示物は数週間ほどで入れ替えますし、季節に合わせた展示を行うといったこともしています」と話す。バリエーションが非常に豊富であるため、ある程度精通していても飽きずに楽しむことが可能だ。また宮尾さんは、それまで博物館に興味が無かったという人に向けて、「日本史の教科書に載っているような展示品も多くあるので、本物を見てみたいといった気持ちから訪れてみるのもおすすめですね」とも話す。
1872年に創設された東京国立博物館は日本最古の博物館であり、国宝を87件、重要文化財を634件収蔵している。何から観ていいのか分からないという人は、ふらっと訪れて気の赴くままに国宝や重要文化財などを見て回るというような利用の仕方も面白いのではないだろうか。
◎国立西洋美術館
所在地: 東京都台東区上野公園7‐7
開館時間: 9: 30~17: 30、金曜日は20: 00まで※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜日(休日の場合は翌火曜日)、年末年始
URL:http://www.nmwa.go.jp/
◎国立科学博物館
所在地: 東京都台東区上野公園 7‐20
開館時間: 9:00〜17:00、金曜日は20: 00まで※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌火曜日)
URL:http://www.kahaku.go.jp
◎東京国立博物館
所在地: 東京都台東区上野公園13‐9
開館時間: 9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌平日)、年末年始
URL:http://www.tnm.jp
5月27日発行の本紙(紙媒体)において、国立西洋美術館と国立博物館に関する記載に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。