教員免許は、大学生が取得する資格の定番である。しかし、SNSなどで教師の過酷な労働環境が明らかになるにつれ、教員志望者は年々減少傾向にある。本学においても、教職課程履修者の減少に伴って一部教職課程が廃止された。本紙は、教職課程に関する説明の後、このような状況下においてもなお教職課程を履修している3名の学部生に話を聞いた。
 はじめに、ほとんどの学生にはなじみがないであろう教職課程の所要資格について解説したい。現在本学の有する免許課程は、経済学部の中学校一種・数学、高等学校一種・数学、社会学部の中学校一種・社会、高等学校一種・地理歴史、高等学校一種・公民の5種類である。2年前は上記の課程に加え、商学部で高等学校一種・商業、社会学部で中学校一種・英語、高等学校一種・英語の計8種類の免許課程を有していた。しかし、履修者の減少により2年間でここまで種類が減った。
 そして、本学で授与資格を取得するには、すべての教職課程に共通する「教職に関する科目」を中学校教諭一種免許状で31単位、高等学校教諭一種免許状で27単位履修しなければならない。加えて、各教科及び教科の指導法に関する科目や、高等学校教諭一種免許状の場合、大学が独自に設定する科目をさらに8単位履修し、計59単位修得する必要がある(※詳しくは学士課程ガイドブック参照)。
 また、上記に加え、免許法施行規則66条の6に定める科目(「日本国憲法」、「体育」、「外国語コミュニケーション」、「数理、データ活用及び人工知能に関する科目又は情報機器の操作」)を各2単位以上修得する必要がある。
 そして、上記の単位をすべて修得するには、学外で行う実習も必須である。中学校教職課程では7日間の介護等体験と3週間にわたる教育実習、高校教職課程では2週間の教育実習を経てようやく教員免許の授与資格を得られる。総括すると、教員免許取得には上記単位の取得と実習への参加が必要であり、多くの時間と労力がかかる。
 教職課程履修者が、多くの時間を割いてまでも教員免許取得を目指す理由は何であろうか。履修者の一人、岩切龍聖さん(社3)は、漠然とした教師への憧れと教育への問題意識から教職課程を履修したと語る。幼い子どもたちをまとめる小学校教師や、雑談のような面白い授業を展開する高校の世界史教師に出会い、憧れを抱いた。一方で、中学時代に体験した教師による体罰や、管理主義的な教育に疑問を感じ、教育への問題意識も同時に抱くようになった。これらの経験を通して教育の良い面と悪い面の双方を見たことから教育に興味を持ち、教員免許の取得を目指した。
 椿丈さん (経2)は、家族に教育関係者が多く、大学生は当然教職課程をとるものだと思っていたと語る。加えて、これまで関わった教師との仲が良く、学校生活に良い思い出が多いことも教職課程の履修を決めた一因だという。
 一方、将来教師になるという夢を見据えて教職課程を履修した人もいる。坂本一真さん(経3)は、将来教師として働くことを中学時代に早くも決めていたという。同級生に勉強を教えて楽しさを覚えたことや、生徒一人一人を気にかける教師との出会いがそのきっかけになった。
 しかし、近年では教師の過酷な労働環境が話題になるなど、教師という職業に対する懸念を抱く人も多い。教職課程履修者は、教員免許取得後の将来をどのように描いているのだろうか。意外にも、教職課程履修者の将来は教師に限らずさまざまな進路があるようだ。
 岩切さんは、自身の学校生活で感じた教師の質のばらつきをビジネスによって解決したいと語った。教師の質を下げている過剰な業務量をDXの導入によって削減するという岩切さんの考えは斬新なものである。これまでは、教師の労働環境に関する問題の解決法として、官僚主導の改革や教師団体による法改正の訴えなどの活動が主であった。しかし、それら既存のアプローチではなくビジネスを用いることで、多額の資金を動員し、より大きな変革を教育にもたらすことができると考えた。教員免許はその目標達成に少なからず役に立つだろうという。
 椿さんは、教員免許が将来何かの役に立つだろうと思いつつも、新卒で教師になるつもりはないという。教師の収入の低さと、「卒業後すぐに教師として学校に戻ると、学校以外の世界を知らないことになる」という家族の意見が影響している。しかし、教職課程を履修し、教師のなり手が不足している現実を知ると、社会のためには自分が教師にならなければいけないのではないかという義務感を感じることもあるといい、「教師になりたくなるような環境を作ってほしい」と最後に訴えた。
 坂本さんは、中学校で数学教師として働きたいと語る。数学の魅力に気付く時期が遅かったことへの後悔が、数学教師という夢への原点だそうだ。大学受験を機に、当初は苦手としていた数学を基礎から勉強し直したところ、その面白さに魅了された。坂本さんは、早くから数学に興味を持っていれば進路の選択肢が広がったのではないかとの後悔から、自らの体験を反面教師として、子どもたちが早い段階から数学に興味を持ち、将来の可能性を広げる手助けをしたいという。一方で、教師の業務量の多さにやはり不安も感じている。最も懸念しているのは、忙しさゆえに生徒一人一人を気にかけることができなくなることだと語った。
 教職課程を履修している理由が三者三様であるように、教員免許取得後の進路も教師のみならず様々である。しかし、教育や子どもたちの将来をより良くしたいという志は全員共通している。このような志ある人が一人でも多くなり、教育界の救世主となることを期待したい。