「手にフィットするちょっと高いやつ」と、競技者向け仕様のトランプを2組取り出し、ジョーカーを除く52 枚の並び順を暗記し始めた。制限時間は5分。暗記が終わるや否や、即座にもう一組のトランプをその通りに並び替える。2組のトランプの並び順はぴたりと同じだった。
記憶力競技とはイギリス発祥のメモリースポーツだ。「顔と名前」「スピードカード」「無作為の単語」など、10種目の記憶力を試す競技の総合点を競う。
中高時代はクイズに打ち込んだ。記憶力競技に出会ったのはごく最近、大学受験直後のことだ。偶然手に取った本で競技を知り、今後、クイズに生かせるかもしれないと始めたという。しかし現在はクイズよりも、記憶力競技に活動の軸足を移している。「記憶力選手権の努力と結果が直結するところが性に合っていた」そうだ。大会に出題される問題の傾向がはっきりしているクイズの世界では、過去問を手に入れることのできる環境にあるか否かが大きく勝敗に影響する。一方で、無作為に問題が作成されるため、自分の努力だけが勝利に結びつくというのが記憶力競技の世界だ。「自分の限界に挑戦する中で、成長の過程が見えることが楽しい」と語る。
いつも持ち歩いているという1冊のノートを見せてもらった。何の変哲もない薄いB5サイズのノートだが、その中には練習の記録が、競技を始めた1年前から欠かさずつけられていた。「最初は5分で20桁しか数字を覚えられなかった」と初めての練習の記録を指さす。ノートにはほかにも大会の目標、記憶術が書き込まれており、大会直前には何回も見返すそうだ。めくりすぎて取れかかったノートのページは、大好きなディズニーキャラクターのマスキングテープで補強されていた。
今後の目標は日本一になること。高校時代にクイズで目指した日本のトップを、次は記憶力競技で目指している。