5月18日、日本ボート協会はリオデジャネイロ五輪で軽量級ダブルスカルに出場する選手を発表し、本学OBの中野紘志選手(平23商)が男子代表に決定した。

 出場種目の軽量級ダブルスカルは2人の漕手が2本ずつオールを持って2㌔㍍を漕ぎ、タイムを競う。軽量級ダブルスカルを含め、日本はボート競技で五輪のメダルを獲得したことがなく、初のメダル獲得に期待がかかっている。

 中野選手がボートを始めたのは本学に入学後。元々スポーツで結果を残したいと思っていたことに加え、本学内では「一橋生であること」は何のアドバンテージにもならないことに気づき、日本一を目指す端艇部に入って結果を残そうと考えた。

  ボート一筋の学生時代を送った中野選手でも、資格の勉強やバイトの方が合理的で効率的だと思い、ボートをやめたくなったことがあるという。一方で世の中無駄なことはないという思いもあった。「ボートを漕いで日本一汗を流すことで何が得られるのか、そのワクワクで最後まで頑張ることができた」。自分がボートで一番になれるかは分からない。それでも自分は何かできるはずだという思いを持ち、ボートを漕ぎ続けた。その甲斐あって2009年の世界 U23ボート選手権では軽量級舵手無しフォアの漕手として銀メダル獲得に貢献した。

 卒業後はNTT東日本漕艇部に所属するも、4年半で退社する。アマチュア選手として会社から給料を得られる生活を捨て、ボートに生死をかけることで自分を追い込み、オリンピックを目指すためだ。中野選手は「1人で自分の道を歩くのは寂しくて不安だが、周りに人がいるという今までは当たり前だったことへの感謝も生まれた」と振り返る。現在は茨城県スポーツ専門員を務め、ボートで収入を得るプロ選手として活動している。籍は新日鉄住金。

 ボートは他の漕手と息を合わせることだけでなく、水上や陸上でのトレーニングを通じて養う個々の力も求められる。ボートについて「自分と向き合ってよく知ることができ、かつ周囲に対する理解も深まる。とても人間的なスポーツ」と中野選手は話す。しかし日本では決してメジャー競技ではなく、ボート選手として食べていくことは難しい。ボートがメジャー競技になるには、自分の選手としての価値だけでなく、ボート競技自体の価値を上げることが必須だと中野選手は考えている。そのためにもブログやSNSを精力的に更新し、ボートがもっと身近なスポーツになるように練習以外でも努力を重ねている。

 本学生に向けて中野選手にメッセージを求めると「一橋生が優秀と言われるのは 難しい試験に合格できるから、大企業に内定をもらえるからだけでなく、自分自身で未来を作る力があるからだと思う。自ら道を切り開き、たくさんの人を助けることができる人間になってほしい」と話してくれた。

 ボートの道を選び、自ら切り開いてきた姿は我々に夢を与えてくれる。自らの可能性を信じて、中野選手の挑戦は続く。