昨年12月に学長に就任した蓼沼宏一学長が、就任後初めて本紙の取材に応じた。蓼沼学長は取材の中で今後の大学運営についての方針を明かした。
―これからの本学の将来像は
本学ウェブサイトで公開した「一橋大学強化プラン(1)にある「社会科学の先端的研究を推進して社会改善に貢献しつつ、一人ひとりの学生に向き合い、大切に育成して社会に送り出す大学」を将来像として描いています。
その実現のために中長期的なプランとして3つの柱を掲げました。
―その3つの柱とはどのようなものか、そしてそれぞれの詳細は
まず、「社会科学高等研究院(※1)を中核とする世界最高水準の研究の推進」です。これについては国際共同研究を推進するために、海外の研究者を招いて本学の教員とのコラボレーションを図っていきます。学会の第一線で活躍する海外の大学の研究者を短期間でも迎えられるよう、計画は既に立てています。また研究力を伸ばす重要な時期にある、若手の教員を中心に、カリキュラムに影響を与えない範囲でサバティカル(研究専念)制度(※2)を適用して研究の活性化を図る予定です。 次に「質の高いグローバル人材の育成」です。これは単に英語が堪能な人材の育成というだけではなく、グローバル化する社会の中で社会貢献できるような人材を育てていくという意味です。詳しくは後でお話ししますが、そのためのプログラムをいくつか計画しています。
最後は「『スーパー・プロフェッショナル・スクール』の構築」、すなわち専門職教育の充実です。現在高い評価を受けているMBAコース、法科大学院、国際・公共政策大学院など大学院での専門職教育を、MBAコースの国際認証を得るなどしてより高度化・国際化させていきます。加えて、社会人教育についても一層の充実を図る予定です。その一つの例として、新たに四大学連合のつながりを生かした医療関係の経営者や管理職のための教育プログラムの設置を構想中です。これらに関連しますが、私は今後入学する学生には将来の進路を問わず、高度な専門的知識を得るためにより多くの人に修士課程まで進んでほしいと考えています。
―今後留学制度に対してはどのようなスタンスをとり、どのようなカリキュラム編成をしていくか
本学には「一橋大学海外派遣留学制度」などの素晴らしい留学制度があるので、まずはそれを充実させるのはもちろんです。しかし、本学には他にも発展途上国等の海外調査や今季行われる予定のペンシルヴァニア大学の講師による英語集中講座など、多様な海外研修プログラムがあり、それらも拡充していく予定です。
将来的にいくつかの研修プログラムから少なくとも一つを履修するカリキュラムを構想していますが、必ずしも海外短期語学留学というわけではなく、前述のペンシルヴァニア大講師による講座のような国内での英語集中研修なども選択肢として含めていく予定です。現在実施中の海外留学モニターについてはその教育効果を検証した上で、多様なプログラムの最適な組み合わせを検討していきます。
また留学に関連して、学生の相互派遣の観点において現在本学の魅力が海外にあまり知られていないために、海外からの留学生が少ないという問題があると思います。そこで海外の大学の教員を招くなどして広報を図っていくことも考えています。
―現在の教育システム、学生の学習・生活環境に改善の余地があると考えていることはあるか
本学の教育システムはゼミを始めとしてよい面が多いのでそこは守っていきたいですが、やはり問題として学生の学習時間が短いというところがあります。それは学生の側だけでなく教員の側にも原因があると思うので、授業内容を充実させるよう教員側に働きかけ、学生の授業外学習時間の増加を促進することで単位の実質化を図っていきたいですね。また、学生には様々な教育プログラムに応募し、積極的に活用することを望んでいます。特に、せっかく協定があるにも関わらずアジアの大学に留学する学生が少ないので、選択肢として考えてみてほしいです。
生活環境については、留学生の増加等によって学生寮の部屋数が不足しているなどの問題があることは認識しています。ですが、財政面が厳しいこともあって、そうした環境面の問題解決や新しい援助にはなかなか乗り出せないのが現状です。限られた財政の中で、プログラムを充実させることを優先して考えています。
―国は学長のリーダーシップを強化した大学改革を進めようとしているが、これにどう対応し、学内の教職員と調整して大学改革を進めていくか
学校教育法の改正によって最終的な決定権は学長にあることが強調されましたが、教授会あるいは現場の意見を聞かずに決定を下すことはできないので、これまで通り合意形成に努めます。研究と教育の充実という大学改革の目的を鮮明にして、大学の運営や組織の中で会議や事務などの無駄があればそれを省いて効率化していくつもりです。
―では、学生との合意形成はいかに図っていくか。またそれに関連して学生担当副学長の選考手続き廃止(本面別記事参照)についてはどのように考えているか
学生からのニーズに関しては従来通り自治会と教育・学生担当副学長の会合を通して意見を聞く予定です。それ以外に特に場を設ける必要は今のところないと考えています。
選考手続き廃止については、学長の責任と権限を明確化することが趣旨です。ただ大学側には教育責任があるわけで、もちろん学生の声には答えなければなりません。こうした中でどのようにその声を拾うかという問題に対しては、やはり教育・学生担当副学長という窓口を通して意見を聞いていくつもりです。
※1社会科学の先端的な研究を行う学長直轄の研究組織として、昨年発足した。本学における研究の一層の高度化・国際化を推進する役割を担う。
※2一定期間、教員の授業担当コマ数や管理運営業務を軽減し、研究に専念させる制度。