国立市の新しい子育て支援拠点「子育ち・子育て応援テラス」が、今年7月に 国立駅南口にオープンした。保護者と子どもが共に過ごせる空間に加え、学生や地域住民も気軽に立ち寄れる場として注目を集めている。矢川地区の「矢川プラス」に続く2拠点目の施設として、地域のつながりを広げる新しい試みが始まった。 子育てを支援するという役割だけでなく、人と人とをつなぐ地域の交流拠点としての役割も担っている。子育て中の保護者を支えるだけでなく、世代を超えた交流を生み出し、地域の絆を深めるきっかけとなってほしいと語っていた。
施設設置の経緯
国立駅周辺に子供の遊び場が少ないという課題を解決すべく、新しく建設されるマンションの1階のスペースを借りるという形で当施設が開設されました。当初は「ここすきひろば」(※1)「ひととき保育室」(※2)といった子育て支援の機能のみの予定でしたが、国立周辺に中高生が自習できるスペースが少ないとの意見を踏まえ「つながるスペース」「ひろがるこみち」(※3)という自習用の空間を追加しました。22時まで空いているので 子供たちのにぎやかな声を聞きながら、フリーWi―Fi完備の環境で1日中勉強できます。

利用状況
矢川プラスという類似の機能を備えた施設が2年前に開設されており、そこでは1日当たり約100組の親御さんとお子さんがいらっしゃっています。施設規模に対してかなり多くの方に利用していただいている状況です。本施設も同様の利用水準で推移しています。
本施設の開設によって利用が分散するのではないかという懸念はありましたが、矢川に行くには遠いと思っていた国立市の中、北、東地域の方々に利用していただいているので、結果として矢川も国立も設置前と変わらない水準の利用を維持しています。
ひととき保育室では、1時間800円の一時の保育のサービスを提供していますが、定員6人に対して比較的予約が埋まっている状況です。平日は保育園や幼稚園に、土日は当施設にお子さんを預けるという親御さんもいらっしゃいます。
施設運営における工夫
当施設の一番の機能は親子の居場所づくりです。規模に対してスタッフの人数が少なく、お子さんと親御さんだけで遊ぶという形態の施設も多い一方で、当施設はスタッフと保護者の方とのコミュニケーションを重視しています。両者の関係構築によって、足を運んでもらいやすくなると考えています。加えて、友達に当施設を紹介して地域の輪が広がってほしいと思っています。
子育て分野は慢性的に人不足なので、十分に人員配置ができないという地域もあります。当施設は保育士だけでなく、子育てを経験した方々も配置しています。地域の方という感覚で関わることができるので、それも魅力の1つだと思います。当施設をかつて利用していた方が、職員になるという好循環が生まれていてとてもありがたいです。まさに「コミュニティ作り」であると感じます。
子育てを1人で頑張らなくてもいいと感じてもらえるように、当施設には子育てをする人々がつながりやすい仕組みが整っています。子育ては1人だと常にやるべきことに追われている ような感覚に陥ってしまいますが、誰かと一緒にいるというだけで、苦労が微笑ましいものに変わります。
かつては 三世代が一緒に暮らしていることが多かったのですが、核家族化に伴って、「孤」育てになりがちです。それから生じる ストレスは虐待の 原因になる可能性もあります。セーフティネットとして子育てと行政を繋げることが重要だと考えています。
今後の展望
今一番大変な方々に届く支援をしていかなければならないと思います。いろいろな方の声を聞いてあげられる場所でもありたいと思っています。
アフリカには 「1人の子供を育てるために、100人の村が必要 だ」ということわざがあります。今は、親御さんだけで子育てをするというイメージがありますが、当施設が「村」として「子育てはみんなでやるものだ」というメッセージを出していきたいと思います。
学生さんが遊びに来てくれることをとても嬉しく思います。最近では、自分の子どもが生まれるまで子どもと接したことがない人の割合が非常に高いと言われています。学生時代に赤ちゃんを抱っこした経験があるだけでも、将来子どもが生まれた時にきっと役に立つと思います。子どもと関わることで命の尊さや成長の面白さに気づくことができるため、貴重な体験になります。
また、学生さんが来てくれることで、保護者の方々にとっても良い刺激になります。普段は親子だけの世界に閉じこもりがちですが、学生さんと交流することで新鮮でリフレッシュした気持ちになる方が多いです。東京女子短期大学や本学との交流も盛んに行われており、大学のキャンパスを散歩する方もいます。こうした関わりが、地域の中での子育て支援にもつながっています。
私自身、大学生の頃は子どもが少し苦手でした。電車や飛行機で子どもの泣き声を聞いて「勘弁してほしい」と思ったこともあります。
しかし それは、子どもと関わる機会が少なく「子どもは楽しい存在だ」と知るきっかけがなかったからだと感じます。自分の子どもができてからは、子どもに対する見方が180度変わりました。
10代・20代のうちに子どもと触れ合う機会を増やすことで、社会全体が親子に寛容になり、子育てしやすい社会につながっていくと考えています。
現在、当施設には市内の未就学児のうち約65%が登録しています。これは全国的に見ても高い割合であり、今後は80%を目標にしています。多くの方に利用していただけるよう、引き続き学生や地域の方々との交流を大切にしていきたいと思います。
利用者の声
うちの子は絵を描いたり赤ちゃんのお世話をしたりして遊んでいます。ママ友と一緒にいることもあります。
2年 前に引っ越してきたため、当初は周りに友達がいなくて不安でしたが、矢川プラスを利用し始めてスタッフの方々やママ友と仲良くなることができました。子供の成長を共有するような顔見知りも多くできました。
※1:ここすきひろば。保護者と子供たちが一緒に遊ぶ場所。
※2:ひととき保育室。子供たちの一時預かりを行う場所。
※3:つながるスペース・ひろがるこみち。フリーWi―Fi やコンセントが設置されており、大学生も含め誰でも利用可能な場所。

