取材に応じてくれた髙橋伸彰さん

 「キャプテンズ・オブ・インダストリー」の理念を掲げ、産業界を牽引する数多くのリーダーを輩出してきた本学は、2024年末から、大学発スタートアップ企業への支援の取り組みを開始した。
 そこで本紙は、時間割アプリ「バシコマ」と連携し、学生のスタートアップへの理解と関心を向上させることを目的に、本学発ベンチャー企業へのインタビューを企画した。 
 今回はシリーズ第1弾として、株式会社フィル・カンパニーの創業者、髙橋伸彰さん(平13商)にインタビューを行った。同社は、街の駐車場上部の空きスペースを「空中店舗」として活用し、土地の価値を最大限に引き出す事業に取り組んでいる。
 髙橋さんは、自身の学生時代の経験に加え、「空中店舗」事業の道のりやキャリア論、 起業を志す人へのメッセージなどを語ってくれた。 

「自分の人生を経営する感覚」を持ってほしい
 「自分の人生を経営する感覚」というのは、自分の生き方を自分で決めるということです。一度しかない人生を楽しく生きるために、やりたいことにチャレンジしないのはもったいないです。
 周りの意見や環境のしがらみにとらわれる必要はありません。自分の人生は自分で決める、そしてその決定に責任を持つ。それが一人の人間として当然のことだと思います。

学生時代は失敗してもいい
 学生時代は起業・インターンシップ・海外旅行など、とにかくやりたいことへの挑戦の繰り返しでした。
 学生が社会のマナーやルールを知らないのは当たり前です。それに、学生時代は何も失うものがない期間ですから、失敗経験はすべてプラスに変えて、将来に活かすことができます。逆に学生の時に挑戦していないと、社会人になってから挑戦がもっとやりにくくなってしまいます。
 受験勉強を乗り越え大学に入学したのなら、今まで我慢していたいろいろなことにチャレンジしていきましょう。

旅行×ビジネス「ビジネスって楽しい」
 学生時代、私は海外に行きたかったので、お金を貯める必要がありました。それなら自分の旅行自体をビジネスにすればいいと思いつき、個人輸入販売を始めました。旅先で気に入ったものを買ってきて、大学の文化祭や国立の大学通りで売っていました。
 自分が欲しいと思ったものを、お金を出して買ってくれる人がいる。自分の趣味とビジネスが同時に達成でき、関わる人みんながハッピーになる。「ビジネスってこんなに楽しい世界なんだ」と気づきました。

刺激的な海外
 旅行先としてはアメリカ、ヨーロッパ、東南アジアに行きましたが、日本との価値観の違いを体感したアメリカが特に刺激的でした。自分が起業に挑戦していることをアメリカで言うと、「ナイスチャレンジ」と言って応援してくれます。
 日本では、何かに挑戦しようとすると、やる前に懸念点を並べて否定される節があります。最初にいろいろなことを想像して、マイナスの言葉が出てきて、結局何もできなくなってしまう。それとは対照的に、成功も失敗も認めてくれるアメリカは、チャレンジしやすい 環境だと思いました。
 やはり海外に行かないとわからないことはいくらでもあり、行ってみて後悔することはないです。

「空中店舗」 事業実現への道のり
 自分が個人販売をする中で、場所を借りて出店しようとしたことがあったのですが、やはり立地の良い場所は家賃が高かった。そこで、街中にあるコインパーキングの上部空間を利用すれば、そうした場所に安く店舗を展開できるのではないかと考えました。
 このアイデアをビジネスとして軌道に乗せるまでにはいくつものハードルがありました。
 第一に、土地を見つけて、その所有者に会うことが大変でした。地主さん100人に当たって1人にも 会ってもらえない世界です。
 そしてなんとか会えても、土地を貸してもらえないこともありました。最初は、駐車場の上部は活用されていない空間なので、絶対に使わせてもらえるだろうと思っていました。しかし地主さんと話してみると、あえて建物を建てず駐車場にしているのには理由があるとのこと。建物を建てるとその土地の用途が長期間縛られてしまうので、一時的に駐車場として活用しているケースが多いみたいです。
 貸してくれることになっても「建物を建てるお金は誰が出すのか」「こういう建物は誰が造れるのか」と 、次から次へと問題が出てくるわけです。
 ハードルを超えては次のハードルに直面しての繰り返しですが、それは前進している証拠でもあります。

「空中店舗」事業の例(フィル・パーク浜松町)

ビジネスは「関わる人全員を幸せにできる仕組み」
 いざ出店してみると、地主さんには気に入ってもらえました。地主さんは地域で影響力があり「地域に貢献したい」「地域を盛り上げたい」という思いの強い方々が多いのです 。 
 車を停めるためだけの場所だった駐車場の上部に、例えばおしゃれなカフェなんかができると、人が集まる明るい空間になって、地域の価値が向上します 。土地を活用した地主さんは、地域の人たちにとても喜ばれるわけです。「地域のためになり、やってよかった」と言って、気づくと地主さんがそのカフェ一番のお客さんになっていました。
 当初はいい土地に安く出店したいという思いから生まれた「空中店舗」事業でしたが、結果的に地域と地主さん含め関わる人全員が幸せになるビジネスにすることができました。

給料が半減してもチャレンジする自信
 フィル・カンパニーを上場するときには、仲間が10人くらいしかいませんでした。みんなそれぞれ経験がある中から来て、給料が半額になった人もいた。それでもベンチャーに来てくれたのは「自分がこの事業を成功まで持っていける」という自信があったからで、まさにチャレンジ精神です。実際1年でみんな前職の給料を超えていきました。
 ベンチャーはやはり、未来志向でチャレンジ精神のある人が集まらないと成り立たないと思います。

企業に雇われて働くか、起業してビジネスを始めるか
 「勉強をして、いい企業に就職する」ことが幸せな生き方だとみんな信じて疑わないけれど、実はほかにも選択肢はあります。自分が何に向いているのかは、いろいろ試したうえで考えるのがいいと思います。企業に雇われて働く人たちは、雇われたことしかないから、実は起業してビジネスを始めるほうが向いていることに気づいていないだけかもしれません。

常に選択肢は無限にある
 就職活動の時期だって、就職だけでなく大学院進学、海外留学など選択肢はいろいろあります。休学して何かにチャレンジするのもいいと思います。チャレンジできる時間は長いほうがいいですから。もう人生120年みたいな時代なので、学びたいときに学べばいいのです。

企業で働くことのプラス面とマイナス面
 たしかに大企業で働くことでわかることもたくさんあります。私が最初企業に就職して働いていたときには、個人ではできない大きな仕事ができ、どういう仕組みで会社や世の中が回っているのかがわかりました。この経験は後に起業するうえで生きています。
 ただ、ずっと同じ場所にいると、自分が雇われて働いていることに疑問を持たなくなって しまいます。「自分の人生を経営」して、自分らしく生きる感覚を見失ってしまいます。だから私は、毎日自分の人生について考える時間を確保していました。

起業するには何から始めればいいのか
 ビジネスの動機は、私のような「いい場所に安く出店したい」という個人の欲でもいいですし、「自分が納得いかない社会課題を解決したい」という世の中への願いでもいいと思います。個人の欲求や疑問の背景には社会のニーズがあるはずです。そのニーズを満たすにはどうすればよいか考え、それに価値があればお金を払う人が現れます。最初からいくら価値があるのか考えるよりも、問題を解決することから始めましょう。
 海外のビジネスを日本に持ってくるのもよくある話ですし、他人のアイデアの真似でも大丈夫です。自分がよいと思うものを広げたいという思いが、ビジネスの動機になればいいと思います。

知識ゼロでOK
 ビジネスを始めるときに、その分野の専門知識がゼロでもまったく問題ないです。フィル・カンパニーは業界でいうと建設・不動産業の会社ですが、私は建築と不動産の知識ゼロからのスタートですよ。
 知識・経験がある人と組めばいいだけの話です。それよりも事業を始めたときの思いのほうが先行します。仕事をしていく中で知識の必要性を感じたとき 、学べばいいのです。誰にでもビジネスを始めるチャンスがあります。

成功するまでやり続ける
 学生時代にも起業したことがあったのですが、簡単に諦めてしまったのですよね。諦めるのはいつでもできますが、もっと人生かけて真剣にやっていればうまくいったのだろうなと思います。「できない理由」を考えるよりは「できるためにはどうしたらいいか」もっとポジティブに考えるべきだったなと。中途半端に終えると、自分の中で変な言い訳だけが残って、後味が悪くなってしまいます。成功するまでやり切るかどうかの話だと思います。

死ぬまでチャレンジし続ける
 今後も死ぬまでチャレンジし続けます。ビシネスをする中でいろいろな人たちと会うこと自体が楽しいので、私にとって起業がライフワークになっています。1チャレンジ10年ぐらいかかりますかね。10年ぐらい本気でやり切ると、結構いい形になるかなと思います。今48歳なので、あと6回チャレンジできるかなという感じでしょうか。

スタートアップの力
 社会問題を解決するビジネスが増えていくことが、結果的により良い世界を作っていくと思います。
 本学は近年新しい学部を設立したり、スタートアップ支援を始めたりしていますよね。私は大学同窓の仲間とともに如水ベンチャーズという名前のベンチャーファンドを立ち上げて、本学現役生・卒業生ベンチャーの支援をしています。
 やはり起業家を増やしたいし、みんなにチャレンジしてほしい。それが大学、日本、そして世界の未来につながると信じています。

たかはし・のぶあき
 株式会社フィル・カンパニー取締役会長。1977年生まれ。2001年に本学商学部を卒業後、オリックス株式会社に入社。2005年6月に株式会社フィル・カンパニーを共同創業。2016年11月に東証マザーズ(現:東証グロース市場) 上場を果たす。2018年2月に一度同社の経営から退き、新興国で金融と事業創出を行うファルス株式会社の代表取締役として社会起業などに従事。2023年2月にフィル・カンパニーの取締役に復帰、同年12月に代表取締役会長に就任。2025年2月より取締役会長。

取材に応じてくれた髙橋伸彰さん