【ヒトツ箸】小西大教授(経営管理研究科)

 山梨県・大月。およそ1000㍍の山を登り終えると、小西大教授(経営管理研究科)はリュックサックから昼食のカップ麺と、お湯の入ったマイボトルを取り出した。「シンガポール料理のラクサ味。初めて食べてから、病みつきになっている。売っていたら必ず買うよ」と話すが、山以外ではほとんど食べないのだという。「別にカップ麺自体は好物ではないんだよね。ただ、山に登って食べると美味しいんだ。ゴミも少量で済むから、持って帰りやすい。おにぎりも良いな。何を食べるかより、どこで誰と食べるかの方が僕にとっては大事なんだよ」

 山登りは十数年前から趣味として始めた。月に数回ほど、山梨県の自宅の近所にある山に登っている。有名な山よりも、人気のあまりない山によく行く。「講義やゼミで人とたくさん会ってるから、一人で楽しむ時間が欲しくてね」と語る小西教授。大学で昼食をとるときも、愛妻弁当を研究室で一人でゆっくり食べるという。

 そんな小西教授だが、研究者の道を選ぶまでのプロセスはややイレギュラーだ。もともと学部卒で就職する予定だったが、安定した人生を求めることに疑問を感じ、学部4年夏に内定を辞退。本学大学院商学研究科修士課程に進学した後、カナダのウェスタンオンタリオ大大学院に留学して経済学の博士号を取得する。だが、その時点では研究職を強く志望していたわけではなかった。教授は当時の状況を「開発金融に関心があって、国際公務員になりたかった。留学も、学問に邁進するというよりは海外で必要な学位と英語力を得ることが目的だったね」と振り返る。

 しかし、留学中に勉強をしていくうちに、研究者を志すようになったという。その理由はいたってシンプルで「エキサイトメントっていうのかな、ただ単に研究が面白かったから」と話す。
 現在の研究分野であるコーポレートファイナンスや金融システム論についても、元々専攻するつもりではなかったと語る。研究者として駆け出しの頃は主にマクロ経済学を研究していたが、大学の講師として最初に受け持った授業は企業金融論。「それまでろくにやってなかった領域だから、教えるために勉強したんだよ。でも、そのうち何だか面白くなってきて、今ではコーポレートファイナンスに関連する分野を専攻しているんだ」と振り返った。

 小西教授は、山登りと研究には共通した魅力があると述べる。「挑戦して、発見し、挫折もする。山登りも研究もこの繰り返し。常に新しい発見があるわけだから、たとえ結果的にうまく行いかなくても目標を持ってやれば、そこに至るまでのプロセスは間違いなく楽しいものになるし、必ず成長はあると思うよ」

 自由でアクティブ、かつ挑戦的な生き方をする小西教授。その人柄もあってか「地図とか、カーナビもあまり好きじゃない。動かされてる感じがしてね」と笑う。
 一橋生にも、何かチャレンジしてみてほしいと話す。「安定して先の見えているた人生もいいとは思うけれど、チャレンジしていかないとつまらないよね」と持論を述べ、国木田独歩の小説「武蔵野」の有名な一節を引用して次のように締めくくった。「『武蔵野を散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない』と言ったものでね。たとえ迷っても遠回りでも、足の向かう、興味の向かう方に行けば、必ず何かが待っているんだよ」