ロシアによるウクライナ侵攻の開始から半年が経った。昨今では、広くロシア社会に対して偏見の目が向けられることが度々ある。そんな中、本学では変わらず、外国語科目としてロシア語の授業が開講されている。そこで今回、本紙では、この世界情勢の中でロシア語を学ぶ意味や指導における意識について 、今年度「ロシア語初級(総合)」と「ロシア語中級C」を担当する佐藤貴之非常勤講師にインタビューを行った。また、授業を履修している2人の学生にも、話を伺った。
 ロシア語を学習する動機は様々だ。初級受講生の一人、竹井智治さん(法1)は、アントン・チェーホフというロシアの短編小説家が好きで、いつか原語でその小説を読みたいという。また原正英さん(社1)は、旧ソ連地域の未承認国家に興味があるからだと語ってくれた。二人とも、今回のウクライナ侵攻を受けても、ロシア及びロシア語への興味関心が損なわれたことはないという。原さんは「ロシア語を学んでいくことで、今後の同国の動向を見つめる一助になればよいと思う」と話す。
 佐藤先生によると、以前までは、ロシア語を選択した動機が曖昧で、ロシアに対してなんとなく謎めいたイメージを持っている学生が多かったそうだ。しかし今回の出来事により、同国が国際的に注目されるようになって、学ぶ目的や問題意識がより明確になった印象があるという。
 今だからこそロシア語を学ぶ魅力は何であろうか。佐藤先生は、同国の文化の多様さを挙げる。ロシアは、演劇やバレエ、またスポーツなどの分野で芸術大国であるが、それらは国の「産業」として発展してきた一面がある。一方で、民衆の側では、国の強権体制に対して自由や民主主義を求める動きもあり、日本でも有名なトルストイやドストエフスキーらの文学作品にも色濃く表現された。ロシアが独裁主義を深めていく中で、どのように芸術が育まれてきたのか、佐藤先生は授業内で積極的に伝えるようにしているという。
 さらに、佐藤先生は、ロシアをめぐる国際情勢が変わりつつある今だからこそ、ロシア語の学習は重要だと話す。世界各国がロシア外交官を追放するなど、同国は国際社会から孤立しつつある。しかし、佐藤先生は「閉鎖した社会では、何も生まれないことは、20世紀の冷戦体制で学んだはずだ」として、対話の重要性を指摘する。ロシア語を通し、ロシアの歴史や文化を学ぶことで、また違った角度から現在の情勢をみることができるかもしれない。
 最後に佐藤先生は、今ロシア語を学んでいる、もしくはこれから学ぶ学生に対し「決して、ロシア語を学んでロシアを知ることを諦めないでほしい」と、励ましのメッセージを送る。そして「ロシア人やロシア社会を閉鎖的なものにせず、つながりを持つことが、一つの抵抗になる。それが21世紀の私たちにできることだ」と、改めてロシア語を学ぶ意味を強調した。