今年9月、松井剛教授(経営管理研究科)のゼミナール15期生が『ジャパニーズハロウィンの謎 若者はなぜ渋谷だけで馬鹿騒ぎするのか?』(星海社新書)を出版した。本書は、ここ数年で日本の年中行事として急速に定着したハロウィンについて、現在(イマ)・過去(カコ)・未来(サキ)の3部構成で解説している。
第1部「ハロウィンのイマ」では、渋谷ハロウィンをはじめとする現代日本の多種多様なハロウィンイベントを、消費者行動論を研究する松井ゼミの学生の現地体験やインタビュー調査に基づいて学術的に分析している。松井教授は第1部について「ハロウィンは渋谷に始まり渋谷に終わる、という構成に注目してほしい。トラック横転事件に代表されるネガティブな渋谷ハロウィンのイメージから入っていきながらも、池袋など他の場所のハロウィンイベントを一通り知ると、渋谷ハロウィンの別の立ち位置が見えてくる」とコメントした。
また、同ゼミに所属する吉原なつめさん (商4)は「自分たちが理論を深く理解しないと、ハロウィンに関する事象を消費者行動論で適切に分析し、分かりやすく解説することはできない。松井先生の著書をゼミテン全員で何度も読み返して、読み手に伝わる文体を研究した」と話し、第1部執筆における苦労として論文調でないくだけた大学生らしい文章で説明する難しさを挙げた。
第2部「ハロウィンのカコ」は、ケルト人の祭りを起源とするハロウィンが、アメリカを経て日本に伝わるまでの歴史をつづっている。その時系列上で起こった出来事も、第1部と同様に消費者行動論の観点で解説している。ハロウィンの歴史をケルト文化の時代から詳細に記述した資料は日本では希少であり、松井教授は「第2部は今後、参考文献として多く引用され得る」と話した。吉原さんは「ケルト文化に関する文献を探すのが大変だった」と振り返った。
まとめの部分でもある第3部「ハロウィンのサキ」は、前後半に分かれる構成だ。前半は、ゼミテンが日本のハロウィンに関してそれぞれ学んだことを座談会形式で共有する。後半ではこの本全体の内容をまとめた上で、ジャパニーズハロウィンの将来について消費者行動論のキーワードを用いて考察している。
吉原さんは「座談会は非常に盛り上がり、脱線も多かった。文章として編集したゼミテンは大変そうだった」と、全員の調査内容の濃さ故の苦労を語った。
本書は、中高年層に読者の多い新書という形態をとっている。一方で、文体は思いの外若者向けな部分もあり、松井ゼミの学生の等身大の姿がありありと描かれている。叙情的な文や、若者言葉の連続も見られ、想定読者の年齢層をかなり広くとっている。松井教授は「レーベルである星海社は、新書としては若者向けの本が多い。ハロウィンの当事者である若者にも、ニュースを通じてハロウィンにネガティブな感情を抱きがちな中高年にも読んでほしい」と述べ、読者がイメージだけでなく現実に即して物事を知ることを望んだ。