秋晴れの心地よい10月初旬の昼休み。今回は島本実教授(商学研究科)のお昼にお邪魔した。外食をするときは大学近辺の色々な店に行くという島本教授。今回は我々に焼肉亭いなみでご馳走してくれた。「同じ大学の後輩だからいいんです。皆さんもいつか後輩にご馳走してください」。まるでデート中の彼氏かと思うくらい、遠慮する暇も与えない会計へのダッシュが印象的だった。
島本教授は愛知県の出身。東京への憧れがあり、難しい大学に入って親に上京を納得させようと本学社会学部に入学した。学部1、2年次は政治学や社会思想に興味をもっていたが、何を勉強すればいいのかよく分からず、小平の図書館でどのような学問・知識があるのか探していたという。
4年次から約1年ドイツへ留学。「親には迷惑を掛けない」という誓いから如水会留学の選抜に通るべく、帰国子女に負けないよう英語ではなくドイツ語を選択したそうだ。帰国後は親元に戻ろうと愛知県の大企業を志願し、内定を得た。
事件が起きたのは卒業間際の3月。他学部科目だと思っていた米倉誠一郎教授の授業が実際には他学部科目とカウントされず、単位が足りないため卒業できないことが発覚したのだ。米倉教授に相談し内定先に掛け合ってもらうも、やはり内定は取り消し。進路に悩んでいる折、大学院進学を勧められる。実はこのとき島本教授は、米倉教授の授業の影響で商学研究科に強い関心を抱いていた。経営史は面白いと思い、院試のための勉強をして本学大学院の商学研究科へ進学した。
島本教授曰く、大学院進学後が「本当の修行」で、毎日英語の論文を読み、週に1、2日はレジュメ作成が終わらずに徹夜したという。博士号取得後はやっと地元に戻り、愛知学院大学に勤務。オファーを受け、2004年に本学に帰ってきた。
経営史の醍醐味はとてもシンプルに長い期間を説明できることであり、よりよい仮説を追い求めて日々研究に勤しんでいる。授業では歴史に興味をもってもらうことを第一としており、授業に来た学生に「おもしろい」と思って帰ってほしいそうだ。また若い頃は自分の先生に社会科学の古典を学べと言われても何の役に立つのか分からず、最新のことを学びたいと思ったそうだが、読み継がれる古典には相応の価値があり、一通り学ぶと古典の魅力がわかるのだという。
島本教授は一橋について、先生が自分にしてくれたことを次の代に返そうという風潮が強いのが美点だと話した。研究者が再生産されないとこの大学の伝統も受け継がれなくなってしまう。もっと大学院に進む人が増えてほしいと願っている。
「大学時代は自分が何者かを探し問う時間であり、何があるか分からないところに飛び込んでアクシデントを楽しんでほしい」と思っている。一見すると回り道も多かったように見える島本教授。「人生のゴールは死ぬことだけ。だから回り道なんてない」