世界には我々と同世代の大学生が数多く存在するにもかかわらず、日本以外の国に住まう彼らに目を向ける機会は決して多くない。世界の学生は何を感じ、考えているのだろうか。この企画は、現在タイのチュラロンコン大学に留学中の本紙記者が、その端緒に少しでも触れようと世界中から集まった同大学の留学生にインタビューを行う連載記事である。


慈誠卓瑪さん

 中国福建省出身の慈誠卓瑪(20)は、オーストラリアのモナシュ大学からやってきた。銀行員である両親の期待を一身に背負って17歳でオーストラリアに進学し、金融を専攻に選んだ彼女は現在、修行僧としての道を歩み始めている。「15歳でチベットに一人旅をしたときに僧の人と出会って、そこから仏教に興味を持ち始めたの」

 元々彼女は政治家になって貧しい人々を助けることが夢だったが、仏教と出会ったことでその考えは徐々に形を変えていった。「何億元もの資産を持つ富裕層の友人が絶えず地位や名誉を追い求めて疲弊していた一方で、貧しいなりに幸せに暮らしている人たちを見たとき、本当の幸福は自らの心の内からしか生まれないんじゃないかって感じたの。両親に反対されたりもしたけど、自分の仏道の師匠に相談しながら、最終的には政治家になって物質的な援助を人々に施すよりも僧になって皆の心の在り方を支えていくことに決めたわ」

 彼女が剃髪をして正式に修行僧として袈裟を着始めたのは、今年の7月からだ。信仰は大乗仏教だったが、上座部仏教も学んでみたいと考え留学生として8月にタイに来てからも、一日も祈祷の修行を欠かしたことはないという。そうして修行を重ねる中で自分の中に起こった一番の変化は、自身の感情を適切にコントロールできるようになったことだと語る。「祈祷に集中して取り組むと自分がどういう存在であるかが分かってくるの。自己を正しく理解することで他者からマイナスの感情を向けられて落ち込んだりしても、そこに執着せずにすぐに立ち直れるようになったの。精神の安寧を保つことが、幸せに過ごす一番の方法だと思う」

 感情が良くも悪くも激しく揺れ動く経験は誰しもあるものだが、では我々はそれにどのように対処すべきなのだろうか。「仏教には何事についても両極の間のちょうどいい状態を目指すべきだとする『中道』という言葉があるの。感情だけじゃなくて人生の色々な物事についても中道に立つ意識を持つことでおのずと心身を安定させられるようになるし、それが結果として混迷したこの世界の中でよりよい人生を形作ることにつながっていくんじゃないかな」