快晴であたたかな陽気の昼頃、岡室博之教授(経済学研究科)と西生協で合流した。普段は窓際の席に座ることが多いそうだが、埋まっていたため、外で食べることに。桜の花びらが舞い散る中、西生協とグラウンドに挟まれたテーブルで話を聞いた。
岡室教授の昼食は、生協で購入した麦ごはん、味噌汁、菜の花チャンプルー、野菜のおひたし、とバランスよくお盆に載っている。チョイスの基準は、「健康ですね。ごはんは絶対麦ごはんにするし、肉なら豚肉。ビタミンB1を摂るようにしている」。小学1年生になる息子のために、奥さんは毎朝弁当を作っているが、負担をこれ以上増やさないように、との気遣いから、岡室教授自身は生協でごはんを食べることが多いそうだ。
海外に出張することも多い岡室教授。他国の食事情について、「アメリカで、夜遅くに軽食を頼んだのに、巨大なオープンサンドが出てきて卒倒しそうになった」「20年前の話だけど、イギリスの料理は学食に限らずレストランでも酷かった。一番おいしい料理がジャガイモを蒸してバターを乗せたもの」と話す。多様な食生活に触れて得た知見が、日本にいるときくらいは栄養バランスを考える、ということらしい。「この大学の学食が特別おいしい、というわけではないけれどね」
現在、岡室教授の専攻は産業組織論、特に現代日本の起業活動やイノベーションプロセスを計量的な手法を使って研究しているが、もともとは経済史を専攻していた。
実家は中小企業の経営者だったが、幼いころから家業は継ぎたくなかったという。高校に入り、父親が京都大学の教授という友人に出会った。海外への出張や駐在経験、国内外の書籍がたくさん収められた書斎。そんな世界に憧れ、学者になろうという思いを抱いた。
そして高2の秋、西洋経済史学者増田四郎の『大学でいかに学ぶか』を読み、こんな素晴らしい学者を育てた一橋大学は良い大学に違いないと半ば決めつけて、経済学部へ進学。元来歴史に興味があったが、人文科学としての文学や史学ではなく経済学部を選んだのは、まずは社会の仕組みを学びたいという思いからだという。
大学入学後、授業にはほとんど出席せず、図書館で文献を読み漁ってばかりだったという。ゼミナールでは、歴史的アプローチから近代ドイツの手工業制度の発展を研究した。
大学院時代には、戦後の西ドイツの中小企業研究に携わり、ボンにある国立中小企業研究所の所長に直接頼み込んで研究所に入れてもらった。そのまま、博士号を取得するまでの5年間、客員研究員として受け入れてもらえたのだという。「いまでは考えられないが、当時はそれが許される寛容な時代だった」と振り返る。
中小企業が主な研究対象なのは、学部生時代から一貫している。中小企業の経営者になることを避けて学者になったはずなのに、それを対象としている現状について、「これも何かの縁なのだと思う」と話す。この分野の計量的分析は大企業と比べてまだ少なく、日本では未開拓に近い。重鎮の研究者に計量的手法を理解してもらえず、「現場を知らない」「労多くして実り少なし」などと批判されたこともあったという。それでも、実態と理論の両方に立脚した緻密な実証研究を続けて、日本の中小企業研究を変えていきたいと考えている。
経済学だけでなく歴史学、経営学といった様々な視点を取り入れながら、研究を深めてきた岡室教授。今の学生は教授から見ると、「自分たちの時代と比べたらとてもまじめだけれど、好きなことをもっと主体的に学ぶ姿勢があってもいいと思う。いろいろなことにチャレンジしてほしい」