KODAIRA祭 百田尚樹講演問題

今年度のKODAIRA祭における小説家、放送作家の百田尚樹氏の講演会開催が発表され、各所で波紋を呼んでいる。百田氏の政治信条や実行委員の対応をめぐる議論も多い。ツイッター上で本件について触れ反響を呼んだ川口康平講師(経済学研究科)と、KODAIRA祭実行委員の講演会担当者に話を聞いた。


ツイートで講演会について言及 川口康平講師

――今回のツイートには、どのような意図があったのでしょうか?

川口先生Twitter

まず、僕はあのツイートで今回の件の是非について直接論じたかったわけではありません。「一流社会科学系大学の矜持を持とうな」と述べたのは、僕が委員側に感じた「かっこ悪さ」を非難するためです。

――その「かっこ悪さ」とはどのようなものでしょうか?

委員の対応を見ていると、自分たちの人選がどのような反応を引き起こすか事前に十分に検討出来ていなかったのではないかと思います。その浅はかさが「かっこ悪い」と感じたのです。

学園祭に誰を呼ぶかは自由ですし、政治的に問題のある人物を「あえて学問の場に引きずり出す」という意図があれば、それは非常に有意義です。しかし、「誰を呼んでもいいなかで、あえてこの人に講演してもらう」という選択は、結果として外部に何かしらのメッセージを発することを免れません。物議を醸すことが事前に分かるような人物を呼ぶのですから、予想される反応に対して意見をしっかりと用意するべきだったと思います。

――先生は、百田氏を呼ぶこと自体に問題があると考えますか?

はい、そう思います。まず一つは、彼自身がマイノリティに対するヘイトスピーチを行っているという点。二つ目は、彼の言動が大学という「特殊な言論のみが許容される場」にそぐわないと考えられる点です。大学における議論では、ある仮定の下で結論を推定し、検証の結果それが誤りだと分かれば訂正するという一連のサイクルがベースにあり、そこに準拠しない論説は学問的主張として不適切だと判断されます。この点からいって、彼の反対派に対する普段の態度は大学という場にそぐわないと思いますし、彼に講演の機会を与えることは、一橋はそうした言動を支持する大学なのだと受けとられかねません。

――実行委員は今後どのように対応すべきだと考えますか?

一度講演者として招待し、受けてもらった以上、実行委員はホストとして彼を歓待する義務があるのもまた事実です。外部からの反発に応じてイベントの中止や趣旨変更を行うべきではないでしょう。あくまで混乱が生じないよう運営してほしいと思います。


 

今回の講演を企画 KODAIRA祭実行委員

――今回、講演者として百田氏が適当だと判断した根拠を教えてください。

集客を見込めるということが最大の理由です。KODA祭は、「新歓期の集大成」という位置づけがあり、大学の内輪のイベントという雰囲気が出てしまいます。外部からの来場者でも楽しめる企画として、毎年講演会を実施しています。メディア企業を志望する学生の多い本学において、人気番組の放送作家で、かつ作家としても広く世に知られた人物でもあるため、話題性は十分であると考えました。

――百田氏は民族差別的な発言を繰り返すなどネガティブな話題性もあったように思います。そうした点に対し委員内で懸念はあったのでしょうか?

実際、一部の委員からは「アジアからの留学生も多い本学に、そうした国々に対し差別的な発言が目立つ百田氏を呼ぶのは不適切だ。祭りのイメージを損ねてしまうのではないか」といった声も上がっていました。ですが今回の講演では、百田氏の政治的な思想、信条については触れず、「現代社会におけるマスコミのありかた」というテーマに絞った講演であれば問題はないと判断しました。正直ここまで大きな反響が起きるとは予想していませんでしたが、百田氏という人選、企画趣旨の設定は適切だと考えています。

――本講演の開催については強い反発も見られます。当日の混乱を防ぐ取り組み等は検討しているのでしょうか?

大学側からは、「本講演においては混乱が生じる可能性があるため、会場周辺の警備を強化してほしい」との要望があり、外部に一部業務を委託しようと考えています。また講演内容については台本が用意されておりますが、問題のある発言があったと委員が判断した際には、その場で何かしらの措置を取って対応したいと考えています。


 

今回の取材を通じ、気になる点があった。それは、本件について論じる際、往々にして百田氏の政治的立場と、レイシスト的言動が混同されているということだ。政策について左右いずれかの立場を取ることと、特定民族を誹謗中傷する行為は「言論の自由」という言葉で一括りにして語られるべきではない。後者については明確に否定されなければならないという前提を共有したうえで、慎重な議論を期待したい。