今年で創立150周年を迎える本学は、これまでさまざまな分野で活躍する人材を輩出してきた。本紙は今回、その中でも3人の卒業生にインタビューを実施した。1人目は、昨年12月の国立市長選挙において、現職を抑え初当選を果たした濵﨑真也さん(平20法)。学生時代の思い出や国立市長を志したきっかけに加え、大学と国立との関わり、新入生へのメッセージも語ってくれた。
――まず学生時代、印象に残っていることを教えてください。
大学ではキャノンというテニスサークル(現在のC.T.C.)に入っていました。そこで2年生のときにキャプテンをやっていたんですよ。100人以上いるサークルだったので、団体の運営についていろいろ考えていましたね。入ってくる人の目的やテニスへの打ち込み度合いはさまざまじゃないですか。その中でテニスの練習と懇親会などのイベントの開催をどうバランスよくやるか、サークルを辞める人をなるべく出さないために、どう連帯感を保つか、といったチームビルディングを経験したことはすごく印象に残っています。
――大学入学後、国立に暮らし、この街のどのような点に魅力を感じましたか。
公務員試験を受けるにあたって、本格的に勉強をするようになったのですが、大学の図書館を利用したり、友達と国立のファミレスやカフェで勉強したりする中で、やはり国立の落ち着いた環境はすごくいいなと感じました。
駅前に文教地区の看板が立っていますが、この街には大学を含め教育機関が多くあります。加えて「都心から1時間かからないものの、にぎやかすぎない」といういわゆる郊外都市でもあり、子育て・教育・住環境の面で魅力的だと思ったんです。
――大学での学びについて、特にその後のお仕事や政治家としての活動に生きていると感じることを中心に教えてください。
自分が所属する法学部で学んだ民法や憲法といった根本的な法律の知識は、行政で法律を運用したり作ったりする上で、知っておいてよかったことです。しかしそれ以上に、他学部の内容も含めて、高いレベルで総合的に学べたことがよかったです。
例えば商学部で学ぶ会計やマーケティング、組織運営の知識はたぶん何の仕事をするにも役に立つと思います。政治家でもやはりある種のベンチャー的に、自分の政治団体をつくっていくところがありますし、お金は何をするにしても付いて回るじゃないですか。特に企業会計の知識は、公務や他の仕事に応用できるので、商学部で学ぶことは、社会に出てからとても重要だなと気づきました。
――他に学んでおいた方がよいと考える学問分野はありますか。
公務や政治をやる人はマクロ経済学を絶対に学んでおいた方がいいです。
今は格差是正が大きな課題じゃないですか。政府が福祉政策のために租税を活用して所得を再分配したり、経済活性化の目的で公共投資などを行ったりするのですが、一方で、政府が民間企業の経済活動に関与すると、逆に成長をゆがめる側面があるので、慎重に行うべきだという意見もあります。マクロ経済学ではこういう経済の大きな概念を学ぶんです。
基本的に、政府が支出して積極的に経済に関与すべきというケインズ経済学と、それでは民間の元気がなくなるので逆に競争に任せるべきという新自由主義などの考え方があります。最初は後者に振れたのですが、今は世界的に揺り戻しが来ているんですよ。
日本も世界の流れに遅れて追随してきたけど、今後どうしていくべきか。日本は特にこの議論をしなければいけないんです。
――大学卒業後、しばらくは国土交通省に勤められたとのことですが、そこから政治家を志すようになったきっかけを教えてください。
僕が国交省に入った2008年頃は、日本全体で人口減少が危惧され始めた時期だったんですよ。人口が減り始めている自治体で、あまり人が通らず「動物しか通らない」といわれてしまった道路や、過大な需要に基づいた公共施設を造ってしまうみたいなことが結構あったんです。そういう人口減少にどう向き合わなきゃいけないかを、すごく真剣に考え始めた時代でした。
また、国交省に入った当時、日本経済はすでに元気がなく、社会格差が拡大しつつあり、「失われた10年」といわれていたんです。
そうした社会状況の中で国家公務員を15年務めて僕が思ったのは、結局日本って変われないんじゃないか、正直に言って人口減少や格差是正に対して国があまり取り組めていないのではないかということで、行政に限界を感じたんです。大きな方針を決めるのは政治なので、社会の方向性を大きく変えて、今世界的にも広がる格差や分断に向き合うには行政では限界があると思い、政治の世界を目指しました。
――なるほど。国交省を辞めた後、民間のコンサルティング会社に約2年間勤められたそうですが、その経緯やそこで得られた知見を聞かせてください。
政治をやる上で経済活性化は重要な観点で、民間のことを知らずに政治をやるのはよくないなと思いました。民間ではデジタル技術の活用に加え、いわゆる働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンなどが急速に進んでいて、公務員の世界だけでは社会の流れに追い付けないと思ったんです。
それでまず民間のPwCコンサルティングという企業に入りました。コンサルではいろいろな企業を相手にするので、各企業の特徴が分かりすごく勉強になりました。
民間企業は、会社によっても千差万別ですが、基本的には競争の中で成長しなければならないので、組織が変わることを真剣に追求しています。一方で、行政はつぶれないので、どうしても民間に比べると変わろうという意識が弱いというのは本当にその通りだと思いましたね。
ただし、民間は分かりやすく売り上げや各種利益などの経営指標が数字として出るので、良くも悪くもそれありきなんですよね。逆に、行政は利益をそこまで追求しなくてもいいので、本気で公益を追求しているんですよ。だから行政には行政なりのよさがあるとは思います。
――その後、国立市長を志されたきっかけを教えてください。
民間に移ってから1年半から2年ほど国立の街で地域活動やボランティアを行い、そのタイミングで地方政治が重要だなって気づいたんです。具体的な活動としては、高齢者の居場所や子ども食堂、ごみ拾いサークル、防災カフェなどでのボランティア活動を通して市民の方と交流しました。一橋の「国立あかるくらぶ」さんやア式蹴球部さんと一緒に活動することもありました。
――それでは、今後の国立の街づくりの展望を簡単に教えてください。
今、国立って元気がないと思っているんですよ。中央線沿いの周辺市で、唯一国立だけがここ十年で現役世代の人口が減っているんです。まずはこの状況を緩和したいですね。現役世代が減ると、税収が確保できなくなって、結局福祉やインフラ整備にお金が回らないんですよ。
自分が学生だったときは、全国で住みやすい街で一番といわれることもあったのに、なぜ20年でこうなったのかという思いなわけです。
バブルの時期までは田園調布や国立みたいな郊外が人気だったんですよ。しかし、バブルが弾けてからは人口は都心回帰のトレンドで、東京の中でも、都心に近い東側に人口がシフトしてきている。こういう社会全体の流れにどうあらがうかっていう戦いなんです。
他の街と同じやり方では、より都心に近い方に負けてしまう。国立のポジションを考えての「差別化」、もっといえば「ニッチ戦略」がポイントです。7万6千人のすごく小さな市である国立が、他の街に勝てるものは、やはり歴史的に培ってきたこの学園都市の落ち着いた環境なんです。
開発されすぎていない閑静な住宅街や緑のある環境を好む方もいると思うんです。この国立の落ち着いた雰囲気を守ることで、そういう人たちのニーズに応えていきたいと考えています。
――具体的には、どのような取り組みを考えていますか。
チャレンジしたいのは、月に1回くらいの定期的な大学通りの歩行者天国化です。ウォーカブルといわれる政策で、今各地で街中や道路を活用し、過ごしやすい空間をつくることがテーマになっているんです。例えば、パリのシャンゼリゼ通りはブティックなどが集まる目抜き通りで、歩行者天国にすることで観光地になっています。国立には大学通りという広い通りがあるので、これを利用して楽しめる歩行者重視の街づくりをしていきたいですね。
毎月、歩行者天国の運営団体を変えるような形も面白いのではと思っていて、もし一橋の学生団体やサークルで、大学通りの歩行者天国を使ってイベントをしたいところがあれば、ぜひ言ってください。
――では、市の政策における本学の位置づけや役割について教えてください。
まずは国立の顔ですよね。歴史的にも国立は大学を核として開発されてきました。一橋は、国立を学園都市としてブランド化し、PRしていくというニッチ戦略における肝ですよ。
そしてもう一つ重要なのがスタートアップ政策や市の産業振興における大学との連携ですね。
国立に若い人を呼び込みたいとは言うものの、長期的に見ると現役世代が減少するのは、国全体の傾向でもあるので仕方がないんですよ。そのためにも国立に企業を増やすことで、街を元気にしたり、雇用を確保したりすることはとても重要なんです。そこで一橋生の皆さんにはとても期待しています。
卒業してすぐ国立で起業するパターンもありますし、一度大企業に入ってから若いうちに退職して、国立で起業する方もいらっしゃるんです。若い人だとインターネットで全国や海外を相手に仕事ができるので、起業したら国立にオフィスを構えてもらって、市としても支援していきたいです。
また、雇用や法人税の確保以上に、国立にそういう人たちのコミュニティができると、「なんか面白いね、ここ」と思ってもらえる街になると思うんですよね。
――最後に新入生・在学生に向けて、メッセージがあれば教えてください。
勉強はいろいろな分野を学んでおくことをお勧めします。一つのことを深めるのも大切ですけど、将来何が役立つかは分からないんです。だから、いったんは視野を広げて、触りだけでもやっておくと、社会人になって再勉強するのが楽だと思うので、お勧めですね。というのも、今は技術や知識がすぐに陳腐化する「不確実の時代」や「VUCA(ブーカ)」といわれていて、リスキリング(学び直し)がすごく重要視されているんです。アンテナを広げるという意味でも、実学重視の一橋で知識の幅を広げておくというのは、やっておいた方がいいと思います。
また文部科学省は、VUCAの時代に対応するために「確かな学力」と「生きる力」が必要だとしていて、結局学力と同じくらいコミュニケーション能力も重要というのが世界標準になっているんです。そこでアルバイト、社会貢献、部活・サークルといった課外活動もすごく大切だと思うんですよね。
あとは、あまり決め打ちしすぎない方がいいような気がします。経験の幅を広げることを重視して大学生活を楽しんだ方がいいんじゃないですかね。僕らが就活したときは、終身雇用が前提でしたが、そのつもりで就職した同世代の人たちに今会うと、一つの会社にずっと勤めている人は50人中5人程度なんですよ。みんな転職したり、起業したり、ベンチャー企業に入ったりしています。そういう時代になってしまうと、一つのことに決め打ちする方が、かえってリスクじゃないかと思うんです。
だからメッセージとしては、この不確実の時代に対応するためには学問の幅を広げ、対話する力や人格的な素養も高めておいた方がいいんじゃないかということですね。
<プロフィール>
はまさき・しんや
国立市長。1984年、千葉県生まれ。2008年に本学法学部を卒業後、国土交通省に入省し、街づくりや在宅ケア支援などを担当。22年にPwCコンサルティングに入社し、戦略部門マネージャーを務めた。24年の国立市長選で当時の現職候補を破り初当選。現在1期目。国立市中在住。