5月22日、一橋いしぶみの会が主催する講演会『企業と大東亜共栄圏』がZoom上で行われた。慶応義塾大学名誉教授・倉沢愛子先生を講師に迎え、第二次世界大戦下の東南アジアにおける軍政と企業の役割についての講演が行われた。当講演は、第25回KODAIRA祭においてオンデマンド公開され、そのあともYoutube上にて一般公開される予定だ。本紙では、主催である一橋いしぶみの会について、代表の竹内雄介さん(昭49経)からお話を伺うとともに、講演会の模様を取材した。
一橋いしぶみの会は、昭和の戦争で亡くなった一橋大学関係者を追悼する団体だ。現在、卒業生や戦没学友の遺族ら40名ほどの会員がいる。発足のきっかけになったのは、2000年に建立された「戦没学友の碑」。卒業生をはじめとする大学関係者の寄付によって佐野書院(東京商科大学初代学長・佐野善作氏旧私邸)に建てられた。これに合わせ、碑前で追悼会を開くことと次世代に戦没学友について伝えることを目的として発足したのが始まりだという。
会の主な活動の一つが追悼会だ。毎年5月第3土曜日に佐野書院前庭で、10月21日(学徒出陣壮行会の日)には如水会館の「戦没学友の碑」レプリカの前で、それぞれ開催している。また、本学内で講演、朗読劇、キャンパスツアーなどを実施し、国立市の依頼で6月の国立市平和の日イベントに協力するなど、本学と国立市に密着した活動を続けている。さらに、KODAIRA祭、一橋祭では『戦争と一橋生』の展示を行っている。これは、戦没学友の個人史を調べ、編纂しなおすという取り組みで、本紙記者も参加している。
今年のKODAIRA祭では、展示に関連し、日本占領下の東南アジアに関する講演会を企画した。企画のきっかけになったのは、80年前に起こった大洋丸事件だ。1942年5月、東南アジアへ向かう日本船が米潜水艦により撃沈された。占領地の経営と開発のため現地へ向かっていた企業人、官吏、技術者ら817名が犠牲となった。その中には東京商科大学(現在の一橋大学)の卒業生22名が含まれていた。
倉沢講師によると大洋丸事件の背景には、日本軍による委託経営事業があったという。これは、占領した東南アジア地域の生産設備を日本企業に運用させるもので、委託を受けた企業から多くの社員や技術者が現地へ送り込まれた。大洋丸事件が起こったのは、この人員輸送中だった。
日本軍による占領は、現地の経済にどんな影響を与えたか。倉沢講師は以下のように指摘する。第一に日本軍のニーズを最優先し生産調整などが行われた結果、経済のバランスが崩れた。例えば戦前、ジャワ島は世界有数の砂糖の生産地であった。しかし、生産調整の結果、生産量が落ち込み、戦後もついに戦前の水準まで回復しなかった。第二に連合国による爆撃で鉄道が破壊されたことで、国内の輸送能力が著しく減退した。このように、日本軍の占領が現地に与えた損害は大きかった。倉沢講師は最後に、経済的側面だけを見ても、日本による支配を肯定することは難しいと強調し、講演を終えた。
竹内さんは本紙取材の最後に、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に触れ、苦々しい表情を見せた。平和が揺らぎかけているいまだからこそ、少しでも多くの人に、80年前の日本の戦争を見つめなおしてほしい。今回の企画には、一橋いしぶみの会の平和への願いが込められている。