KODAIRA祭の初日(6月10日)に予定されていた百田尚樹氏講演会。企画決定、承認の経緯や教員の動きを取材した。
講演会の企画が動き始めたのは昨年の夏頃。実行委員会は約30人の講演者候補の中から、金銭面や日程などの理由で百田氏を選んだという。
学園祭の企画は、沼上幹副学長(教育・学生担当)ほか各研究科の教員などが構成する学生委員会で審議、承認される。本企画はまず2月の定例会議で審議された。その際、人選の経緯や収支について学生委員会から質問があり、判断は4月に持ち越される。
4月の定例会議では質問に対する実行委員会からの回答があり、警備の厳重化を条件に企画は承認された。学生委員の経験をもつある教員は「学生の自治が大前提。思想内容について判断することは学生委員の役割ではないという認識が委員会内にはある」と話し、複数の教員が「手続き上問題がなければ承認することになっている」と述べた。
その後学内外で講演会を懸念する声が上がる。6月5日に学部協議会が公表した「KODAIRA祭の百田尚樹講演会アンケート結果報告」によると、学部生の間でも、「ヘイトスピーチが行われうる」、「グローバルを掲げる本学にふさわしくない」、「どんな外部団体が来るかもわからず危険」などの意見があった。一方で「事前に発言を押さえつけるべきではない」、「呼んだ以上は開催すべき」、「せっかくだから自由に討論すればいい」という考えもあった。
5月23日には実行委員会が学生委員会宛の書面を提出。警備に関する学生委員会との意見交換を求め、翌24日の会議には実行委員も参加した。31日の臨時会議で講演会当日の西キャンパスに入構制限をかける警備案を実行委員会が提出し、承認された。
警備案は図書館利用目的の学生と講演会のチケット保持者以外の西キャンパス入構を禁止するというもの。しかし図書館利用や研究会のために訪れる学外者などに関する言及はなく、「細かい点が練られていなかった」と複数の教員が話す。
加えて、22日付けの教員有志60人からの要望書が議題に上がり、「ハラスメントガイドラインの改定などを検討してはどうか」という意見が出た。そこで規定を明確に定める必要の是非が議論されたが、「ハラスメントガイドラインの改定や策定などは時期尚早である」との結論に落ち着いた。
教員の議論
講演会への懸念は教職員の間でも広がっていた。
5月22日には教員有志60人が、蓼沼宏一学長、佐藤宏副学長(総務・財務・研究担当)、沼上幹副学長、中野聡副学長(国際交流・広報・社会連携担当)宛に要望書を提出。百田氏講演に関する執行部の判断、またハラスメント防止に向けた長期的な対処を示すよう求めた。
社会学研究科は講演会について17日の教授会で議論し、22日に安川一研究科長と評議員の稲葉哲郎教授・貴堂嘉之教授の連名で、蓼沼学長に長期的な差別対策を求めた。同時に、一昨年のアウティング事件を踏まえ、実行委員の学生が精神的に追い詰められることへの懸念から、複数の教員が実行委員に連絡を取っていたという。
6月2日の中止公表後は、講演中止や反差別ルール制定を求めていた学生、要望書に署名した教員に対し、SNS上で非難が集中した。これを受け、6日には国立キャンパス教職員の過半数代表・秋山晋吾教授(社会学研究科)が蓼沼学長宛に要望書を提出し、ハラスメントやヘイトスピーチに対する毅然とした態度の表明を求めた。
9日には教職員組合が、22日には言語社会研究科が、学生・教職員へのヘイト発言を遺憾だとする声明を出しており、同研究科は人権が尊重されるキャンパス実現に向けて努力すると表明した。