【OB対談】創作と消費の間で

※本記事の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2018年4月7日)


 作家と読者、奏者と聴き手。両者をつなぐ「間に立つ人」なしでは、私たちはどんなコンテンツも楽しむことはできない。それぞれ本・音楽業界で「間に立つ人」として活動する内沼晋太郎さん(平15商)とレジーさん(平16商)に話を聞いた。


「間に立つ人」

内沼 作る側でも消費する側でもない立場を最初に意識したきっかけは、大学時代に佐野眞一の『誰が本を殺すのか』を読んだことです。そこから売る人、作る人、流通させる人というように、いろいろな人が関わって業界が成り立っているということを意識するようになりました。

レジー 僕は結構昔から、間に立つ人に興味がありました。90年代の半ばに、小室哲哉とか小林武史とか、プロデューサーが注目を集めた時期がありましたよね。彼らは曲を作る以外にも、売り方だとか、作り手と聴き手の間に入っていろんなことを差配しているということを知り、それで裏方の人たちにも関心を持つようになりました。昨年出版した『夏フェス革命』でも、アーティストとリスナーをつなぐ夏フェスが起点となって、音楽の在り方が変わっていったことをテーマにしました。

内沼 僕も高校生のときは音楽がやりたくて、音大に行くことも考えたんですが、ビジネスサイドとプレーヤーサイドの両方をやりたい気持ちから、一橋を志望校にしました。それもひょっとすると「間に立つ人」の目線からなのかもしれないです。結局プレーヤーとしては諦めるところがあって、自然と中間に立つ側を仕事として選びました。

 

フェスとプラットフォーム

内沼 フェスってそんなに影響力があるんですか?

レジー 今はフェスのいい時間帯、大きいステージで演奏するということの重要性が以前よりも増してきているんですよね。有名なフェスのメインステージに出る事が、昔のオリコン1位と近い話になってきているのかと。そういう状況の下で、アーティスト側もフェスを意識しながら活動せざるを得なくなってきています。オリコンはCDの売上だけで作られていますが、フェスのタイムテーブルやステージ割は全面的に主催者にゆだねられているんです。そんな中で、フェスがプラットフォームとして権力を持ってしまうのではという懸念があります。

内沼 でも、もっと小さな経済圏で活動しているミュージシャンとリスナーへの影響はあまりないですよね。サウンドクラウド(※1)に曲をアップしている人や、小さめのフェスに出ている人には関係のない話のような気もしますけど。

レジー 確かに、大きなフェスの影響下にないアーティストも多数存在しますし、インターネットのおかげでそういう人たちが独自の経済圏を作りやすくなってきていますよね。ただ、個人的には、アンダーグラウンドな人たちの活躍はメジャーな存在があるからこそ際立つのかなとも思っています。フェスはメジャーフィールドで名を馳せるにあたっての重要な装置に今はなっているわけですが、そういう構造において「アーティストじゃなくてフェスが儲かる」みたいな形が生まれかねない状況はちょっと怖いなあと感じているところです。

内沼 そうなるとむしろ、アップルミュージックやスポティファイの方が、ミュージシャンの新たな稼ぎ口になるんでしょうか。

レジー そうですね。スポティファイで海外のプレイリストに曲が載ると、日本人アーティストであっても世界中で再生されたりもしますから。

内沼 スポティファイのプレイリストを作っている人も、かなり影響力を持つことになりますよね。ただ、夏フェスに選ばれるためとか、プレイリストに選ばれるために、何かを犠牲にしなきゃいけないとなると、それはつまんない話ですよね。

レジー 「プラットフォーマーが横暴にならないか」については今後も注視すべきポイントかなと。それに加えて「音楽を聴くのが第一目的でない人のたくさんいる場であるフェスが、音楽業界の主戦場になっている」というのもある意味では歪だなと感じています。主催者が来場者の行動を取り込んでいくにつれて、フェスにおいて「音楽を聴くこと」以外の魅力の方が期待されるようになった印象も受けます。最近だと「インスタ映え」みたいな話が代表的ですが。

内沼 でも「音楽を聴くこと」以外が楽しめるのも、音楽フェスの魅力ですよね。誰もライブをちゃんと聴いていないけれど、寝っ転がっていると音楽がなんとなく聴こえてきて楽しい、そういう環境は本では作れないです。

レジー 音楽はどこにでもBGMとして存在できますが、本は能動的に読まないと楽しめないですからね。

 

2人の理想

レジー 僕が一番気になっているのは、音楽そのものやアーティストよりも、それを間で取りまとめている立場の権力が強くなることです。これはおそらく小売全般に共通する話だと思うんですけど。
アマゾンや蔦屋書店のような大きなプラットフォームがある中で、内沼さんはB&B(※2)みたいな「小さいけどいい感じの場所」をどのように発展させたいとお考えですか?分かる人が集まってくれればいいのか、それともそういったものを横に広げていくことで、メガプラットフォームに対抗し得るものを作りたいのか……。

内沼 もっと本屋を始めやすい環境を作ることには、力を注いでいこうと思ってます。日本中に本屋をやりたいと思っている人はいて。その人たちの背中を押すことで、アマゾンでも蔦屋書店でもない、小さいけどその人にしかできない本屋が、ちょっとずつ増えていく、みたいなことは妄想しています。
ただ、そのネットワークが何らかの力を持つことについては、あんまり期待していませんし、それで本の売上がV字回復するようなことはないですね。でも「本っていいよね」という雰囲気を作るには結構良い作用をもたらすと思ってます。

レジー 選べるようになるといいですよね。アマゾンでぱっと買うこともできるし、ちょっと足を運んだ時には意外な本に出会えるみたいな。

内沼 やっぱり両方あるのが豊かですよね。アマゾンとか蔦屋書店がやることって、どうしたって全ての人の理想通りにはならないんですよ。だから色んな人がそれぞれの理想の場所を持ったり、訪れたりできるようになるといいですよね。

レジー 音楽でも、大きいフェスがあって、それとは別に規模の小さいローカルなフェスがあって、各自が自分にマッチする形で楽しめる。そういう状態がちゃんと維持されていくといいなと思ってます。

 

一橋生へ

内沼 本も音楽も斜陽産業だと言われるので、大学生は敬遠しがちだと思うんですね。でも、僕らみたいな仕事をしてる卒業生もいるってことは知っておいてほしい。どんどん優秀な一橋生に入ってきてもらいたいです。

レジー 僕みたいに会社勤めしながら音楽業界に片足突っ込むこともできるし、内沼さんのように会社を辞めてそっちの業界にというのももちろん可能だし、色々な関わり方がありますよね。

内沼 一橋の学生でこういう業界に興味を持っている人は、「中間の仕事」をポジティブに楽しめるかどうかを考えてほしい。ロックだとか推理小説だとか、何か特定のジャンルだけがすごく好きだという人は、業界に入るより、趣味として極めるほうが幸せかもしれない。
偏愛するものも持ちつつ、全体の動向を面白がれる人が向いています。けれど本業にするかはともかく、音楽でも本でも、好きなら続けてほしいです。続ければ、ちゃんと何かにつながるから。

※1……インターネット上で音声ファイルを共有できるサービス。
※2……下北沢の本屋。本だけでなく、ビールなどドリンクを提供し、本に関するトークイベントを毎日開催する。


◇レジー
ブログ   レジーのブログ
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◇内沼晋太郎
Twitter  @numabooks