中野聡学長(本学広報課・社会連携課提供)

 新入生の皆さん、入学おめでとう。
 1875年に開設された商法講習所を起源とする本学は、近代日本の建設のためには、教養豊かな世界で活躍できる指導的な人材を実業界において育成することこそ国家が担うべき事業であるという信念から創立され、20世紀を通じて日本を代表する社会科学の総合大学として成長してきました。最高水準の研究を展開する教員と優れた学生が、ゼミナールに代表される少人数教育などを通じて対話し結びつくことで育まれてきた「卓越した学術コミュニティ」としてのあり方は、一橋大学ならではの歴史に裏づけられてきた伝統です。
 このような歴史と伝統もさることながら、入学した皆さんに感じてほしいのは、この緑濃い国立キャンパスが醸し出す、一言でいえば平和で穏やかな雰囲気です。朝から散策や写生に訪れる人、読書する人、小さなお子さん連れの人、保育園の子どもたちと先生。そして、伊東忠太(*)が、兼松講堂だけでなく、あちらこちらに散りばめた空想動物たちがキャンパスの平和を見守っています。これから皆さんが歩む長い人生においても、この雰囲気の中で学び、過ごした記憶は、心のどこかにずっと残っていくことでしょう(大先輩の皆さんから聞いているので保証付きです)。
 もちろん、キャンパスから外に目を転ずれば、戦争、経済格差や社会的分断の深刻化、地球環境・気候変動問題、新たなパンデミックの恐れなど、世界は人類の未来に不安を感じさせる状況に囲まれています。そのような現在だからこそ、社会が抱える課題解決の担い手としてやがてこの一橋から世界に向けて巣立つことが期待されている皆さんには、学部学生としてのキャンパス・ライフを心から楽しんでほしいと思います。そして、皆さんが安心して学び、生活を送れるように、私たち教職員一同は全力を尽くします。私たちは、皆さんにとって一橋大学が、やる気さえあれば何にでも手が届き、気になることがあれば何でも相談できるようなコミュニティであるべく努力しています。どうぞ積極的にアプローチしてください。
 そして、本年、2025年、一橋大学は創立150周年を迎えます。「ひとつひとつ、社会を変える。The Bridge to the Future HITOTSUBASHI 150th」を合言葉に、本学の歩みをふり返ると共に、未来を背負う皆さんには、ぜひ、次の150年の世界と日本に向けて、何が課題なのか、私たちは何をすべきか、どのように解決の道を探るべきなのか、ひとつひとつ考え、未来に向けた橋を架ける営みに参加してほしいと思います。
 新入生の皆さんが素晴らしい大学生活をスタートできることを、心から願っています。

(*)伊東忠太(1867~1954)建築家、建築史家。兼松講堂のほか、築地本願寺、東京都慰霊堂など多くの建築作品で知られる。