普段の活動の様子(Bashikoma合同会社提供)

 9月上旬、本学学生専用の時間割アプリ「バシコマ」の大型アップデートが行われた。「バシコマ」は2022年11月のリリース以来、着実に利用者数を増やしており、現在では、ほぼすべての学生にあたる約4000人がアプリを利用している。
 本紙は、今や本学学生の大学生活にとって欠かせないものとなった「バシコマ」について、開発メンバーの一人であり、Bashikoma合同会社の代表を務めている竹内昭広さん(商4)にお話を伺った。

「バシコマ」の画面イメージ(Bashikoma合同会社提供)

――今回のアップデートではどのような改良を行いましたか。
 大きく分けて二つの改良を行いました。一つ目はデザインの刷新です。変更したのは、時間割の「ホーム」画面と授業を管理する画面で、ここまで大規模なデザインの変更は、アプリのリリース以降初めてのことです。
 また、二つ目の大きな変更は「サークル」「イベント」「記事」という三つのページにアクセスできるメディア機能の追加です。「サークル」には学内の部活やサークルについて掲載されていて、管理者がアプリの中で自由に情報を編集したり、「イベント」情報を発信したりできます。「記事」では、学内のサークルやゼミについて、独自に記事を執筆する学内メディア「一橋名鑑」が手掛けた記事を読むことができます。「一橋名鑑」としてはバシコマという媒体に記事を掲載することで、より広く学生に情報を提供できるうえに、われわれとしてはアプリのコンテンツをより充実させ、ユーザーにとっての利便性を向上させることができるため、「記事」機能の追加は双方にとって利のある連携となっています。
 今回の大型アップデートでは、インパクトの大きさを重視して、デザインの刷新とメディア機能の開発を同時並行で進めてきました。

――現状、非常に多くの学生がアプリを使用していますが、ユーザーの増加に伴って何か感じたこと、気づいたことはありますか。
 まず多くの人に使ってもらっているということで、責任を感じています。もし突然バシコマが起動しなくなったり、情報が間違っていたりということがあっては、多くの人に迷惑をかけてしまうため、緊張感をもってサービスの運営を行っています。逆にそれがやりがいでもあります。
 ユーザーの増加に伴って、どの機能がよく使われているかなどのデータが蓄積されたため、それに基づいてアプリを開発・改良することができるようになりました。例えば、授業ごとに各ユーザーが追加できる「課題一覧」はあまり使われていない一方で、manabaやCELSに自動でログインできる「リンクス」は、「一応置いておくか」程度の気持ちで載せておいたものですが、予想以上に多くの方に使っていただいています。
 さらに、アプリのリリースから数年が経過して、授業のレビューが徐々に集まってきており、ユーザーにとってのデータも蓄積されつつあります。これは先輩が投稿したレビューが、後輩の履修決定の際に役に立つということで、ユーザーの利便性の観点から、良い傾向だと感じています。

――SNSやアプリ内の「ご意見・ご要望」の記述欄などで、アプリに対する意見を募集されていますが、どのような意見がありましたか。また、それらはアプリの開発に活かせましたか。
 SNSやアプリ内のフィードバックを通じて意見をいただくことは結構多いです。SNSでは機能に対するトラブルの報告が多く、意見をいただき次第すぐ個別に対応するようにしています。アプリ内のフィードバックの方では、「こういう機能が欲しいです」といったリクエストが多くなっています。もちろんすべてのリクエストにお応えはできませんが、こちらのアプリ設計の方針に沿い、実現できそうなものについては、積極的に取り入れるようにしています。
 ユーザーの意見に基づいて実装した機能はいくつかあって、例えば、年度ごとに自分の履修の単位数合計や、自分が過去に書いたレビューの一覧を確認できる機能は、それぞれユーザーのリクエストに応じる形で実装した機能です。また、もともとは授業の抽選の有無を検索条件に設定することはできませんでしたが、リクエストに基づいて設定できるように変更しました。このようにユーザーから吸い上げた意見を集約して、日々アプリを改善することに努めています。
 自分が書いたコードや自分が行った機能の改善が直接ユーザーに届く、そしてそれに対するユーザーの皆様の声を聴くことができる、という環境はアプリ開発に特有のものだと思うのでやっていて楽しいです。

――「リンクス」やアップデートで追加された「メディア」において、学内団体と連携したサービスが提供されていますが、今後ほかの団体とも連携することはありますか。また、それに関連して「バシコマ」にSNSのような機能を追加することは考えていますか。
 個別の団体と連携するというよりは、さまざまなゼミやサークルが参加できるプラットフォームを提供することを目指しています。X(旧ツイッター)やインスタグラムなど既存のSNSで得られる情報は、どうしても自分がフォローしている団体の情報に限られてしまいます。そこでバシコマでは「サークル」「イベント」などのページで、各学内団体が自由に情報を発信できる開かれた場の提供を目指しており、一橋生がこれまで知らなかったサークルやゼミに出会う、興味を持ってもらうタッチポイントとしての役割を果たしていきたいと考えています。
 したがって、バシコマ内でLINEのようなチャット機能を実装し、それでメッセージをやり取りするようなことは想定していません。皆様が興味のある団体に出会うまではバシコマ、その後の連絡手段は既存のSNS、といった形で、既存のSNSを補完するアプリという理念でバシコマを開発しています。

――以上をふまえて、今後アプリに追加したい機能はありますか。
 直近では、一橋祭での情報発信やゼミの新歓に活用してもらいたいと思っていて、「メディア」において新たにゼミの情報を掲載できるページの実装を予定しています。
 一橋生に情報を提供するという意味では、飲食店や就活の情報も拡充していきたいところですが、次回のゼミページの追加と今回までのアップデートで、追加された機能は十分多くなっています。したがって、次回のアップデートが終わったら、いったんは新しい要素を増やしていくことよりも、足元を固めるというか、既存の機能で不十分な箇所を改善していくことに集中したいと考えています。例えば、「サークル」に関しては学内のすべての団体を網羅しているわけではないので、今後は個別にコンタクトをとって、カバーを広げていくことに取り組まなければなりません。このように既存の機能を確実にしていくことも、ユーザーの利便性にとって重要なことだと考えています。
 時間割アプリとしては、一応必要十分な水準に達したと思いますので、もちろん細かい改良に関してはいろいろな意見を取り入れながら行っていきますが、今後は情報メディアとしての側面を充実させていきたいと考えています。

普段の活動の様子(Bashikoma合同会社提供)

――将来的にバシコマ開発メンバーが卒業される際、アプリ運営が行われなくなるといった懸念がありますが、現状の運営はどのようになっていますか。
 現在エンジニア3人、デザイナー1人、運営サポート1人の計5人の体制で運営しています。私は大学院に行く予定なので、少なくともあと2年は運営に関わることができますが、3、4年生のみの組織なので、そのあとの運営に関しては未定という状況です。一橋はエンジニアになる方が少ないですが、新しく携わってくれるようになった方もいますので、以前よりは懸念は少なくなっています。また、新しい画面をつくる際に欠かせないデザイナーの方については、来年から就職でいなくなってしまうので、現在募集中という状況です。

――もともとは一橋コンピュータ研究会でバシコマの開発を始められたということですが、現在バシコマの運営を行っているのは一橋コンピュータ研究会ではないのですか。
 バシコマの運営は、今春に新たに設立したBashikoma合同会社で行っています。扱うユーザーのデータが増えてコストがかかりますし、一緒に開発してくれるメンバーに人件費をお支払いするべきだろうということで、権利関係と収益関係を独立させるために法人化を行いました。これは初めての試みだったので、どのように収益を出すのかなど課題に直面することはありましたが、バシコマに広告を載せて得た収益で、持続的にサービスを運営できるようにしています。したがって、現在バシコマの運営は、一橋コンピュータ研究会からは完全に独立して行われています。

――バシコマの開発は何らかの形で将来の進路決定に影響しましたか。
 私自身としては、バシコマの開発が直接将来の進路決定に影響したということはありません。私は商学部でコーポレート・ファイナンスを学んでいて、その領域での大学院進学と就職を考えているので、実は今のところエンジニア就職をするつもりはありません。
 私はアプリをつくるときに「コードを書ける」ということよりも、「何をつくるか」ということを重視しています。将来的には「どんなサービスを世の中に出していくか」「それをどんな組織をつくって運営していくか」という、どちらかというと経営者的なことをやりたいと考えています。その意味で、バシコマの開発が自分の将来のビジョンに影響しているところはあると思います。

――学生の間に仲間と協力してアプリ開発されたことは、非常に貴重で有意義な体験だったと思いますが、最後に、このように積極的な活動をするときの心持ちや、何か目標に向かって動いている、もしくは動こうとしている学生に向けてアドバイスがあれば教えてください。
 学生の間はチャレンジができる環境なので、もしやりたいことがあれば、すぐに動き出すのがいいと思います。このアプリは私一人では作ることができなかっただろうし、同期のメンバーと集まってようやく始めることができました。心理的ハードルもあるかと思いますが、いろいろな人と出会うことを大切にして、その縁の中で自分ができること、やりたいことをやっていくのが重要だと思います。