【Hit→You2017/はたらく】就活 in JAPAN

 「日本で就職する学部留学生の割合は4割に満たない(日本学生支援機構調べ)」というのをご存じだろうか? 今や国内の企業、大学、行政の場などでグローバル化が謳われているにもかかわらず、だ。その中で、日本での就職を選んだ留学生の思いとは――。


ペドロさん写真四角

Pedro Avelar
ブラジル出身。小さい頃から日本での生活に憧れていたが高校時代の留学は諸事情により台湾へ。大学こそ日本に留学すると意気込み、国費留学の試験に合格。12年に来日し大阪大学で1年間日本語を勉強したのち、13年に本学法学部入学。母国ブラジルの大学では音楽の勉強もしていた。好きなゲーム会社は任天堂。

 法学部4年生のペドロさんが日本で就活することを決めたのは3年生のとき。日本でゲーム音楽業界の新卒採用があると知ったことが理由だった。「自分がプレイした昔のゲームと今のゲームでは異なる点もありますが、やっぱり憧れがありますね」と心境を振り返る。

 「日本企業は採用情報をウェブで公開しているので、情報の少ない留学生にもありがたかったです」と話すペドロさん。調べたところサウンドクリエイターの採用がある会社は約10社と少なかったため、それら全てにエントリーした。

 サウンドクリエイターという職種上、選考は作った曲の提出が重要になった。グループディスカッションや数多の面接をくぐり抜けたというわけではなく、「あまり大きなハプニングもなかったですね」と話す。しかし唯一受けた面接では、「『国に帰るつもりはありませんよね?』とは聞かれました。圧迫面接とは違いますが……」

 日本での就活について、周囲の人はどう思っていたのだろうか。ペドロさんの場合は家族からの反対はなかったという。「家族は留学する時点で帰ってこないと分かっていたと思います。理解のある家族です」。一方で、日本で就活しない留学生の友人たちからは心配の声が上がった。「大学院に進む友達も含め、7割くらいは日本で就活しないですね」と話すように、一橋大学でも日本での就活を選ばない留学生は多い。

 留学生が日本での就活を選ばない理由として、日本企業における人間関係やワークライフバランスに対する不安が挙げられる。ペドロさんも、以前は日本で働くのは怖いと思っていたという。

 「日本の上下関係は厳しいと思っていました。でもある日、寮で先輩に対して『先輩ゴミっすね』と言った人を見たんです。丁寧語とはいえ『先輩に対してそんな態度でいいの⁉』って思いましたよ(笑)。日本もそんなに堅いわけじゃなくて、言いたいことは言えるんだなって。あとは日本で就職した先輩の話を聞いて日本企業へのイメージも変わりました。
たしかに、日本の企業はスケジュールが厳しく、残業も多いですよね。ブラジルですでに就職した友人に話を聞いても『残業はしない』と言っていました。まあ日本人も人間ですから! そんなにひどいことにはならないと思いますよ」


akirasan

耿雨豪
中国出身。08年に1年間の交換留学で初来日。12年から日本の語学学校に通い、13年に本学商学部入学。2年次に外資系企業、3年次に経営コンサルティング会社のデロイトでインターン。一橋大学キャリアデザイン委員会の活動に加え、小平国際学生宿舎のレジデントアシスタントも務める。

 続いて取材したのは、ペドロさんの友人で商学部4年生の耿雨豪さん。学生団体キャリアデザイン委員会に所属し、就活を支援する側も経験してきた。

 そんな耿さんが日本での就活を決めた理由の一つが、採用の公平さだ。「日本にも年功序列とかありますけど、中国だとコネや出身地も考慮されますから」。もう一つの理由としては、日本が様々な課題を他国に先駆けて経験している「課題先進国」であることを挙げた。社会の問題に取り組む日本企業も多く、働く上で興味深いという。

 ゲーム音楽業界に絞っていたペドロさんとは異なり、耿さんは業界を絞って就活したわけではなかった。「学生は業種にすごく詳しいわけでもないし。OB訪問や説明会で社員と話して、そこで働きたいと思えるかを重視しました」

 耿さんはインターン時、社員が携帯を操作しながら学生のプレゼンを聞く、という状況に遭遇した。「興味ありませんって感じの態度を取られて……。これって圧迫面接ですよね(笑)。でも発表のフィードバックもしてくれましたし、携帯をいじるのも演技だった、というのを後から聞いたんです。聞くだけじゃなくて演技までしてくれるなんて真剣に対応してくれていたということだと思いました」

 留学生が日本で就活する上で、言語の壁は高い。「人事に日本人だと思われた」というほど日本語が流暢な耿さんでも、日本語の読解を要するウェブテストは大変だったという。留学生によっては採用情報を見るのに一苦労、という場合もある。「英語が話せれば良いという企業もありますが、日本で生活して働くなら日本語は必要だと思います」と耿さんが話すように、就活だけでなく就職して働くようになってからも関わってくる問題だ。

 また、「採用情報が開示されているのは良いことなんですが、日本人なら親を見て知っていることを留学生は知らない。前提となる情報がないんですよ」と留学生の情報不足を指摘する。「それにメディアからマイナスの情報を受け取り、日本企業に対するバイアスを深めてしまっている。悪いイメージがあるからってトライせずにやめるのはもったいない」

 もし留学生の後輩から日本で就活したいと言われたら? 「実際に後輩から相談もされたんですが、日本で就職して何がしたいのかを聞きますね。留学生に限った話ではありませんが、大事なのは国境じゃなくて何がしたいかですよ」


 留学生が日本で就活するとき、言語の壁や情報格差など乗り越えるべきものは多い。また日本企業への悪印象は、日本社会のグローバル化にも悪影響を与えているはずだ。

 だが、最後はあえて、社会という大きなものではなく自分、つまり1人の日本人学生に寄せて考えたい。留学生の2人が日本での就活を選択したのは、日本の就活に対する悪印象が事実なのかバイアスなのか、やりたいこととの兼ね合いはどうか、自分なりに考えて判断したからだろう。

 そんな2人とは違い、自分は就活も働くことも大変そうだなぁと、考えることを避けてきた節がある。しかし、考えずにいてもいつかは就活の壁にぶつかる。就活以外の道を選ぶなら一層自分で考えなくてはいけない。どのみち「はたらく」日は来るのだ。一生大学生でいたいと無茶を言う前に、まずは自分なりに「はたらく」について考えてみようと思う。駄々をこねてきた自分が少し反省するくらい、自ら将来を選択した2人はかっこよく見えたのだから。