2025年8月15日は、終戦から80年を迎える日である。戦争と聞いて、戦場で命を落とした兵士を想う人もいれば、空襲や戦火に巻き込まれた人々を想像する人もいるだろう。しかし、戦争の歴史を振り返るとき、戦場での暴力だけでなく、その背景にある帝国主義の拡張といった要素にも目を向ける必要がある。今回の記事では、台湾の作家・楊双子による小説『台湾漫遊録』を紹介したい。本作は台湾で大きな反響を呼んだだけでなく、日本やアメリカでも賞を受賞し、近年注目を集める台湾文学作品の一つである。
物語の舞台は1938年の台湾。当時、日本は占領地の人々を「日本人化」する皇民化運動を進め、台湾人の同化を図っていた。そんな中、日本の作家・青山千鶴子が台湾に渡り、一年間滞在して現地の様子を記事に記録しようとしていた。彼女の通訳兼案内役を務めるのが、台湾人の女性・王千鶴である。本作は二人の旅と交流を中心に、1930年代の台湾社会の風景や価値観を鮮やかに描き出している。
二人は、植民地支配する側の国民とされる側の国民という立場の違いを超えて互いを理解し、絆を深めようとするが、両者の間にはどうしても拭えない隔たりが存在する。植民者と被植民者の間にある不平等な関係性や文化の違い、そしてそれに伴うアイデンティティの揺らぎに対して、果たしてどう向き合うべきなのか。『台湾漫遊録』はそうした問いを読者に投じる。ぜひこの本を通して、終戦80年を迎える今でも戦争や植民地の歴史について考えてみてほしい。