ミスコンの問題点について、柘植道子特任准教授はこう語る。
「ミスコンは『女性ならばこうあるべき』という価値基準を作るものです。(中略)『一橋らしい価値』を持っているだけではだめだということにもなってしまいます」(一橋新聞10月号)
「一橋らしい価値」とは何なのだろうか。「女子学生が約1%」の時代に一橋大生だった辻村みよ子明治大学教授(昭53法)と、一橋祭企画バシジョトークを始めた浮田梨奈さん(社4)、笠原俊宏さん(商2)に「一橋の女性らしさ」について取材を行った。
辻村みよこ教授
――「一橋大学の女性」をどのようにとらえていますか?
一橋では女子学生比率が30パーセント以下で、文系大学の中でも低くなっています。しかしボート部のOG名簿などを見ると、大企業でキャリアウーマンとして働いている人が大多数なのですね。これまでの経験からも、一橋の女性は優秀だという印象があります。
――「一橋の女性が優秀」というのはすべての女子学生に通じるのでしょうか
少なくとも、社会科学分野に特化した大学に入ったのですから、専門的な知識を身につけて活躍したいと考えている人が多いでしょう。留学などもしやすい環境が整っていて選択肢も多く、実際に良い成績で卒業して社会人として力を発揮している人が多いのでは?
――一橋の女性に期待するものは?
男女共同参画が標榜されている現在でも、男性中心社会と性別役割分業の構造は基本的に変わっていません。「男並み平等」の働き方や長時間労働のために、逆に苦労しているのが現実でしょう。スーパーウーマン症候群に陥ることなく、優遇される環境に甘んじることもなく、しっかりとジェンダー分析で理論武装して、活躍してほしいと思います。性別役割分担の意識を変えるために、男性とも協力し、一橋のネットワークも駆使して、閉塞的な社会を変革する起爆剤になってもらいたいですね。
浮田さん 笠原さん
――バシジョトークとは
12年にミスコンが廃止されたことに伴って生まれた、一橋の女性の内面そのものに焦点を当てる企画です。一橋の女性は何かに打ち込んでいる人が多いため、そういう人達の内面の良さを紹介しています。それを見た学生が「私も頑張ろう」と思ったり、地域の人が「一橋の女の子ってこういう人なのか」と知ったりできるものを目指しています。初年度は子育てと仕事を両立しているOGを招いて開催しました。
――辻村教授の言うようなバシジョ像についてはどう思いますか
基本的には賛成しています。バシジョトークも、最初はジェンダー関係の教員の意見を参考にして作り上げていきました。ただ、周囲の期待には過剰なものも感じます。「一橋に入ったんだから」「出産後も仕事は続けるべき」「社会で活躍」などの言葉は重荷になる可能性もあるんじゃないでしょうか。
バシジョトークもプレッシャーになりうる企画かもしれません。そのため、将来像を押し付けるのではなく素の女子学生を押し出すように配慮しています。
取材を終えて
一連の取材を通して一橋の女性の抱え込む期待の大きさを感じた。今回の辻村教授の話に加えて、前回の取材で柘植教授は「一橋の女性は頭がよく、弁が立ち、国際的に活躍できる」と述べている。一方で、今年のバシジョトークで外見に関する話題が多かったことからもわかるように「女の子らしさ」への期待は大きい。
どちらの期待も私は重く感じる。何かに打ち込む優秀な女性像や「女性らしさ」を体現したような人物への憧れはある。しかしそれらを徹底することで、失うものも大きい。
バシジョトークで示される「女性としての幸せを得つつ、仕事と家庭を両立する女性」という理想像は、あまりに自分から遠い。どの道を目指すべきかという迷いは、取材を終えてさらに深まった。