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【退任教員インタビュー】経済学研究科・水岡不二雄特任教授

本学での思い出を振り返る水岡元特任教授

–29年間の本学における研究活動を振り返って

 私は経済地理学を専門としてきました。経済地理学というのは、都市などの空間と経済や社会とのつながりを明らかにする学問です。地理というのは高等学校でも扱われていますが、学問としての地理学というのは必ずしもきちんとした体系があったわけではありませんでした。そこで地理学をとりわけ経済との関係に置いて、その学問体系を構築してきました。

 またゼミでは海外巡検を行ってきました。経済システムや社会政策が都市の建造物や景観にどのように現れてくるのかなど、経済地理学的な観点から海外の都市を実際に観察していくものです。この経験から多くの学生が海外に目を向けてくれました。研究成果はホームページで公開し、情報発信の点でも社会貢献できたかと思います。

–研究テーマとしては他に市場と社会の関係があります

 日本の資本主義の調整メカニズムについて解明するというものです。最近の日本の政治システムは英米とは異なって、行政官僚や企業が自己利益を極大化する東洋型のネオリベラリズムです。その一つのケーススタディとして児童相談所の児童拉致を取り上げてきました。

–ネオリベラリズム研究と児童拉致の問題はどのようにつながるのでしょうか

 今で言うとアベノミクスは自民党の利権構造を強化するところがあり、そのためには財源が必要となってきます。そこでマイナス金利で国債を日本銀行に引き受けさせることでお金をつくり、それをばらまいているわけです。しかしそれでは経済は立ち行かなくなるでしょう。ある日突然ハイパーインフレになるという可能性も当然考えられます。

 それを防ぐために問題の根幹である利権構造に働きかける必要があります。当然すべての利権問題に取り組むことはできないので、その一つとして児童相談所の社会的養護利権について検討しています。要は児童相談所が虐待を口実に子供を「保護」し、彼らを利権の駒として利用しているケースがあるという問題です。これは子供の人権蹂躙でもあります。解決に向けて今後も国際NGOなどと連携をとりながら社会に働きかけていくつもりです。

–長く本学と関わってきて何か変化を感じましたか

 私が一橋に就職した頃は、大学全体の雰囲気がまだのんびりしていました。例えば休講が多く、休講をしても補講をしなさいなどと大学からうるさく言われることはありませんでした。ですから生徒も楽だし、教師も楽という、のんきなところがありました。ところが国立大学が法人化されて、文部科学省が大学間での競争というネオリベラリズム的な方針をとり始めてから、非常にギスギスした雰囲気の大学になってきました。昔が100パーセント素晴らしいというわけではありませんが、今の雰囲気が良いのかと言えば、それは違うと思います。

 例えば一橋の経済学部でどういうことが起こったかというと、アメリカの新古典派経済学が主流になり、他の流れにある学問が脇に追いやられていきました。学生のゼミ選択にしても、新古典派以外の選択肢が以前に比べて非常に乏しくなりました。このように学問の多様性が圧殺されているのが今の一橋大学だと思います。

 また学生について言えば大学の競争力強化の下でGPA制度が導入され、卒業条件に組み込まれるようになりました。それが今度は卒業条件からGPAが廃止されるという話です。これではまさに朝令暮改です。競争競争と言いながら、そこには中長期的な展望もなく、いわば思いつきで学生を振り回していると言われても仕方がないと思います。

–一橋生にメッセージを

 現在、大学のシステムそのものが非常におかしな方向に向かっています。それに振り回されていては学生もストレスが高まっていくでしょう。一橋の学生としては、そういったストレスを個人の内面的な問題としてではなく、大学のシステムの問題として捉えていく必要があると思います。そして新しい大学のあり方について主体的に考えていってほしいです。


水岡不二雄(みずおか・ふじお)

 昨年度まで経済学研究科特任教授。77年本学大学院社会学研究科修士課程修了、82年同大学院社会学研究科後期博士課程単位取得満期退学。86年クラーク大学大学院地理学研究科博士課程修了。87年から本学経済学部助教授。以後、香港大学地理及地質学系客員教授、本学経済学研究科教授などを務め、昨年度末をもって本学を退任。専門は経済地理学。