【企画】ダイアローグ・イン・ザ・ダーク

  一切の光源が存在しない空間をあなたは想像できるだろうか。何も見えない状態は私たちにどのような影響を与えるのだろうか。渋谷・外苑前に、そんなユ ニークな体験を提供する場所がある。ダイアローグ・イン・ザ・ダーク(DID)は、8人でグループを作り、暗闇の中で物を食べる、手紙を書くといった様々 なアクティビティを行う「ソーシャルエンターテイメント」である。体験者は暗闇の中での体験を通して、視覚以外の感覚の可能性、コミュニケーションの大切 さ、人のあたたかみに気付くことができるという。世界32ヵ国、130都市で開催されるDIDでは、視覚障がいのあるスタッフが暗闇の中を案内する「アテ ンド」を務める。今回、DIDでアテンドを務める視覚障がい者の木下路徳さんにDIDをめぐる自身の体験について話を聞いた。

――アテンドとなったきっかけは。

 も ともと休職していたのですが、2004年に視覚障がい者専用のメーリスでDIDの存在と臨時開催のアテンドを募集していると知りました。サポート無しで全 て一人で案内してもらいますと書いてあって非常に驚きましたが、来場者を楽しませる自信もあったのでその日のうちに申し込みました。09年からはここ(外 苑前)で常設展が始まったので、現在は常駐のアテンドとして働いています。

――アテンドとしてDIDにかかわる中で得たものは。

 DIDで行うアクティビティの一つに「暗闇の中で水に触れる」というものが以前あったのですが、視覚障がいを持つ自分たちからすれば当たり前の行為だった ので、健常者の人たちがこんなことをやって楽しめるのかという疑いの気持ちがありました。でも実際にやってみると彼らはものすごく喜んでくれた。見えない という状態が実は面白いことなのだと感じたようです。そのときに、「目が見えないことは決してマイナスではなく豊かな、意味のあることであり、我々には 我々で目の見えない文化というものがあるんだ」と気付かされ、気が楽になりました。

――そうした気付きは実際にDIDを体験することでしか得られないものかもしれません。

 確かにそうです。DIDを通してこうした気付きを得ることは健常者の人にとっても視覚障がいを持つ我々にとっても重要なことです。ただ、それと同時に、自 分たちのような視覚障がい者が「目の見えないことでみんなに迷惑をかけてはいけない」と抑圧された意識を持ち続けてきたことにも気付かされました。日本の 障がい者教育の遅れを痛感していますね。まだまだ私たちにはやるべきことがあるのだと思っています。

 暗闇の中のアクティビティは絶えず アテンドやグループのメンバーの身体に触れ、声を交わして確認を取りながら行われる。また、暗闇の中では誰もが平等であり、その中で直面した困難はグルー プで協力し合って解決することが求められる。このような状況下では、私たちはフルに他者への想像力と視覚以外の感覚をはたらかせざるをえない。結果とし て、それは人のあたたかみを深く理解することや、視覚障害を持つ人々に対する理解を深めることにもなる。これらの気付きは日々の単調な生活の中では得にく いものだろう。このような知見を得るうえで、DIDは非常に良い機会になるのではないだろうか。