本紙は来年、1924年の創刊から100年を迎える。大正から昭和、平成を経て令和に至るまでの4つの時代を通じ、本紙には学生の視点に基づいた様々な記事が掲載されてきた。この企画はそれらの記事を通して、読者とともに本学のこれまでの歩みを振り返ろうとするものである。
第2回となる今回は、第95号(1929年7月1日発行)から「橋人に望む所は論語と算盤の調和 老いて益々元気の渋沢氏が如水会主催の寿会で挨拶」と題された記事を取り上げる(記事の題とこの後の引用部分はなるべく原文を尊重したが、適宜句点を補い、旧字体は新字体に改めた。また、記事から引用した記述には鍵括弧を付した)。
講演会の当日は渋沢氏をはじめその一門も来賓として招待され、如水会員側約330名のほか、本学学生総代5名が出席した。式場である如水会館の大広間には『君子之交淡如水』の額が掛けられるなど装飾が施され、この日にふさわしい明るい雰囲気が満ちていた。なお、この書は如水会の名付け親である渋沢氏が揮毫したもの。『君子之交淡如水』は礼記にある言葉で、如水会命名の由来である。理事長と学長による祝辞では、渋沢氏の経済と道徳の合一への思慮や商業教育での功績を称えられ、満場の拍手が送られた。
渋沢氏はそれに対し、「今日の如水会員諸氏が自分に対して向けられた懇ろなる敬意を誠に嬉しく感ずる次第で、殊に実業界に重大勢力を有するこの会の人々が力を併せて我国商業道徳の樹立に努力されたい」と会員たちに呼びかけたうえで、「年来の主張たる論語と算盤の調和を希望し更に子爵の回顧として明治初年における経験談」を語った。
論語と算盤の調和とは、道徳と利潤の追求を両立させることを指す。渋沢氏は、明治以降の日本人が目先の利益だけを求めるあまり商業道徳が荒廃したことを背景に、そうした実業界の在りようを批判し、企業は国や社会のための使命を果たすべきであり、その活動を通じ利益を得るべきだと主張した。
渋沢氏の講演録『論語と算盤』は、現代を生きるための方向性を指し示すものとして、野球選手の大谷翔平氏をはじめとする各界著名人にも親しまれている。これは、資本主義の問題点や矛盾が明らかになり、株主至上主義からの脱却を図る現代において、渋沢氏の主張が色褪せるどころか、むしろ新たな輝きを帯びつつあることの証左であろう。VUCAと呼ばれる、将来の予測が困難な時代において、激動の明治を生き、「実業界の父」と称された渋沢氏の考え方は新しい道を切り開く人々の道しるべとなるのだろう。