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国立新書シリーズ まちの歩みを語り継ぐ

 3月24日、国立市役所発行の国立新書シリーズの第2号となる『旧国立駅舎-古くて新しいまちのシンボル』が発刊された。すでに創刊準備号『国立を知る―参加と対話を求めて』と創刊第1号『日常と平和』が発売されている。本シリーズ創刊の経緯や今後の展望について、担当者にお話を伺った。また、第1号と第2号の概要についても併せて紹介する。

旧国立駅舎売店に並ぶ国立新書シリーズ

 国立市が創刊準備号を発行したのは2020年3月31日。施策の背景にある理念や目指す市政の在り方など、ホームページや市報だけでは伝えきれないことを多くの市民に知ってほしいという思いから、新書出版プロジェクトが発足したという。市内外の人々に国立の魅力を伝えるツールとなってほしい。未来の市民に国立の歴史や理念をつなぐバトンとなってほしい。国立新書シリーズには、そんな願いが込められている。
 2021年3月25日発行の創刊第1号『日常と平和』では、国立市の平和施策を特集。前年、国立市で「第9回平和首長会議国内加盟都市会議総会」が開かれた。この機会にこれまで国立市が積み重ねてきた平和への取り組みをあらためて市民に伝えたいと考えたことが、このテーマを選んだきっかけだったという。


 本書は四部構成で、第一部では「子ども長崎派遣平和事業」を特集した。これは市内の小学6年生の中から代表者を選出し、事前研修、2泊3日の長崎訪問、派遣後の報告会を通して、平和について考える機会とする事業で、2016年から2019年まで計4度行われている。本書には、企画概要に加え参加者たちによる座談会の様子も掲載。平和に関心を持つ機会になった、日常の平和がいかに脆く貴重なものか気付いた、など子どもたちの様々な感想を見ることができる。
 第二部では、2019年4月1日に施行された「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」を取り上げた。中でも目を引くのは、条例制定の経緯に関する記述だ。2011年5月に就任した佐藤一夫市長(当時)は、職員と頻繁な意見交換を重ねながら、多くの平和事業を展開してきた。そんな佐藤市長の希望もあり、国立市は2016年11月8日に千葉県佐倉市で開催された「第6回平和首長会議国内加盟都市会議総会」におけるプレゼンターに立候補。これまでの取り組みが評価され、自市の平和政策について発表する機会を得た。佐藤市長は病身を押して発表に臨み、わずか8日後に亡くなった。佐藤市政の継承を公約とした永見理夫新市長の主導により、氏の遺志を継ぐ形で、人権と多様性を尊重する基本条例として検討が始まったという。パブリックコメントやタウンミーティングを通じて、直接市民の声を取り入れる形で完成した本条例には、平和と人権を貴ぶ国立市の精神が如実に反映されている。本書には条例原案や修正の過程が細かに記されており、その内容についてより深く知ることができる。
 第三部では、特色ある平和のための企画を数多く紹介した。各企画の主催者や参加者が寄稿しており、その思いと熱量が伝わってくる。その中の一つである「くにたち原爆・東京大空襲体験伝承者講話」は、戦争経験者から体験を聞いた世代が伝承者となり、戦争の悲惨さを後世まで語り継ごうとするプロジェクト。本やテレビでは得られない生の戦争体験、そのリアルさをどう伝えるか模索する伝承者たちの姿が描かれている。
 第四部では、2019年10月24日、25日に国立市で行われた「第9回平和首長会議国内加盟都市会議総会」の様子を記録。今後も、人権と多様性を尊重したまちづくりを進めていくことを確認し、結びとしている。


旧国立駅舎で本シリーズを購入した片に限定のしおりを配付中

 2022年3月24日発行の第2号『旧国立駅舎』では、国立大学町の変遷と、それに伴う旧国立駅舎の移り変わり、その特徴や価値を特集する。古くから国立のシンボルとして親しまれてきた旧国立駅舎。昔を知らない若い世代にも、その歴史を知ることで旧国立駅舎に愛着を持ってもらい、さらなる活用につなげたいという思いが込められているという。
 本書は五部構成。第一部では、旧国立駅舎の概要に触れた後、その建築様式について詳述する。国立大学町の開発を請け負った箱根土地株式会社の要望により建設された当時の国立駅は、全国でも数少ない民間企業による請願駅であり、都内最古の旅客駅舎でもあった。その独特なデザインと歴史的意義から、2006年10月には国立市指定有形文化財に指定された。本書ではライト風デザインやキングポストラス構造など旧国立駅舎の特徴的な建築様式を写真付きで丁寧に記述している。
 第二部と三部は国立大学町の変遷やそれに伴う旧国立駅舎の移り変わりに主眼を置く。箱根土地株式会社による開発と、東京商科大学(現在の一橋大学)の移転を機に、山深い谷保村が現在の国立市になるまでの変遷がつづられている。写真や史料がふんだんに使用されており、当時の雰囲気を感じ取ることができる。
 第四部のテーマは旧国立駅舎の解体と再築。2006年10月8日、開業以来80年7か月もの間市民に親しまれてきた旧国立駅舎は、JR中央線の立体交差事業の影響でその役目を終え、12月末には完全に解体された。しかし、早くから再築を望む声が高まっており、2020年4月に新たな公共施設として生まれ変わった。当時使用していた古材の約七割を再利用し、場所もほとんど変わっていない。まさにまちのシンボルの復活だった。再築までの総事業費は約11億円で、そのうちの約2億円は有志からの寄付金だったという。
 最終章となる第五部では、旧国立駅舎の新しい活用法について考える。現在、旧国立駅舎は様々なイベント会場や人々の交流の場として用いられており、単なるシンボルではなく、まちの魅力発信拠点として機能し始めている。一日の平均来館者数は1100人にも上り、年約90件のイベントが開催されるという。巻末には「これからの旧国立駅舎を考える」と題し、本学学生を含めた10~20代の若者たちによる座談会企画が掲載されている。座談会ではクリスマスのプレゼント交換会や映画観賞会、落書きボードの設置など、駅舎活用のユニークなアイデアが次々に飛び出した。参加者の一人は、「利用する機会がなければ思い出には残りません。かつて駅だったころはみんながここを通って電車に乗っていたけど、今は来るきっかけがなければ素通りされて、数十年たてば思い出がある人は減ってしまう」と話す。過去の遺産ではなく新しい思い出の場に。旧国立駅舎の可能性は無限大だ。


 国立への思いが詰まった国立新書シリーズ。次号では「国立市の人材育成」をテーマにする予定だという。本シリーズは旧国立駅舎、国立市役所他で販売中だ。国立にある一橋大学を選んだのも何かの縁。一度、手に取ってみてはいかがだろうか。