この夏、一人の卒業生が東京オリンピックの舞台に挑んだ。本学卒業生で、ボート部OBの荒川龍太選手(平29法)。大学入学後にボート競技を始め、東京オリンピックのボート男子シングルスカルに日本勢として25年ぶりに出場、総合11位という結果を残した。一橋の卒業生では珍しい、スポーツの世界で活躍する荒川選手に、ボートとの出会い、オリンピックでの経験を聞いた。
荒川選手は、大学入学直後の新歓で「日本一になれるよ」という言葉に誘われ、ボート部に入った。当初は、それまでやっていたバスケットボールや、法学部だったため法学研究会などを考えていたという。
初めて乗ったのは8人乗りのボート。水面が近く、見ているよりずっとスピードが速く感じた。また、自然と一体になれ、周囲の風景がきれいな点も、ボートの魅力だと教えてくれた。
入部後は、ボート漬けの学生生活を送った。埼玉県にあるボート部の寮に住んでおり、「授業はあまり真面目に受けていなかった」と当時を振り返る。
ボートの道に進むと決めたのは、大学4年の時。初めて日本代表に選ばれ、リオデジャネイロオリンピックへの出場権をかけた大会に出場するも、ぎりぎり届かなかった。その時、悔しいという想いと同時に、「世界でもっと戦いたい」「ボートを続けたい」と感じたという。入部前には想像もしなかった人生プランだったが、少し遠回りしても、やりたいことを続けようと、アスリートの道へと進むことを決めた。周囲の人も応援してくれ、自分の希望を貫くことができた。
東京オリンピックは、新型コロナウイルスの感染拡大により、1年延期された。延期決定により、4か月後の目標が急に無くなり、代表内定も持ち越しとなった。2か月ほど、所属チームの練習もストップし、「宙ぶらりんの状態だった」という。それでも、練習再開後は、粘り強くなれるチャンスだと捉え、前を向いた。
ついに今年5月、オリンピックへの切符をつかんだ。しかし、レースの出来が良くなかったこと、選ばれなかった練習仲間への思いから、「直後は想像よりうれしくなかった」とこぼした。また、オリンピック本番の開会式でも、長い通路を埋め尽くす選手を見て、「自分は大勢の選手の一人にすぎない。上には上がいる」と、オリンピックのすごさを肌で感じた。有名な選手も見かけたが、声をかける勇気はなかったという。結果は、順位決定戦5位の総合11位で、決勝には届かなかったが、世界と戦うスタートラインに立てたという実感を得ることができた。今後はパリ五輪でのメダル獲得を目指していく。
最後に、一橋生へのメッセージを頂いた。「スポーツでも何でも、それまで思い描いていた道と全く違う道が突然現れることがある。その時本当に自分がやりたいことをやれるのは幸せなことだから、迷わず進んでいってほしい」