〇さくら通り問題の結末
国立市中部、富士見台から矢川を東西に貫くさくら通り沿いには、多くのソメイヨシノが植えられている。それらは以前から、老朽化による危険性が指摘されていた。2011年には車2台を巻き込む倒木事故が発生し、道路管理者である市が被害者に賠償。今後の対策として、さくら通りの改修工事に伴い、すべてのソメイヨシノを、樹高が低く病気に強いジンダイアケボノに植え替えることが計画された。しかし昨年2月の伐採作業開始後、市民から保護を求める声が相次いだ。それを受け、今年3月に市は計画を見直し、倒木危険性の高い木だけを伐採することにした。
〇桜は60年の命?
ソメイヨシノは江戸時代に交配された園芸種であり、接ぎ木でしか繁殖できないことからもわかるように、他の品種と比べて樹勢が弱いといわれる。戦後植えられたソメイヨシノが、樹齢60年を超えて衰弱する問題は全国的に発生している。道後公園(松山市)では、ソメイヨシノの約8割が枯死・瀕死状態にあって、13年に約半数の植え替えが決定された。
一方で高齢のソメイヨシノを保護することに成功している事例もある。千鳥ヶ淵(千代田区)では、10年前から区が主導して保護活動を行い、樹木の間隔維持や肥料の使用で、樹齢60年を超えたソメイヨシノも健やかに花を咲かせる。弘前公園(弘前市)では、樹齢100年を超える桜が300本以上残っている。
〇国立の桜を守る
「桜の根元にキノコが生えるのも、台風で木が揺れるのも、普段の管理や処置が悪いから。決して寿命ではないんです」。こう語るのは、国立市内で桜の保全活動を行っている大谷和彦さん。25年前、桜の樹皮がめくれていることに気づいた大谷さんは市に訴えたが、まともに取り合ってもらえなかった。そこで、毎年開かれる「くにたちさくらフェスティバル」において、国立の桜のことを知ってもらう展示を始めた。3年目にはポストカードの収益金を用いて、桜の保全活動を開始。5年目には参加者が100人を超えた。
00年、参加者の拡大を受け、桜の保全活動は、2年にわたる市の事業として認められた。そして、大谷さんは、桜保全ボランティア団体「くにたち桜守」を結成。現在では、毎月第三日曜に、15人ほどが集まって、桜の検査・保護や緑地帯を守るロープの修繕、雑草の処理などを行っている。
〇桜の未来、国立の未来
桜守が大切にしているのが、市内の小中高生が継続的に参加する保全活動である。学校に出張して桜守の活動を続ける理由を説明し、桜の保全に関わる実習を行う。根元を守るために菜の花を植え、桜の植樹も児童や生徒の手で行っている。
「活動をきっかけに、街を好きになってほしい。そして、思いやりのある素敵な大人に育ってほしい」。初期の活動に携わった子供は大人になり、その中には再び桜守の活動に参加している人もいる。
大学通りの街路樹は、およそ80年前に植えられたもので、現在もその一部は残っている。大谷さんは、環境の変化や不適切な処置によって傷んだ木は計画を立てて植え替える必要があると話す。一方で、可能な場合は手入れを続けることで、百年桜の実現を目指すという。
「この街にしかないものを大事にしなければならない。いい街、歩いていて心がなごむ街にしていきたい。そのきっかけが、大学通りの桜だと思うんです」