大学生活の後の進路は人によって様々である。だが、一橋生にとって最も一般的なものは就職であろう。毎年多くの一橋生が就活、インターンに取り組み、希望する業界や会社への就業を果たしているが、中には就職を果たせず就職留年をする人もいる。本記事では、学内のキャリア支援室や本学の卒業生へのインタビューなどを通じて、就活における本学の独自性、現状、課題を追った。

 一橋というと、その就職率の高さが雑誌などで取り上げられることが多いが、昨年度の就職状況はどうだったのだろうか。キャリア支援室キャリアアドバイザーの藤本研司さんは「例年通り好調(就職率は97・07%・一面図参照)です。景気の回復や去年から始めたキャリア支援室の取り組みが要因かもしれないですね」と語る。この取り組みとは、一次採用で希望する会社の内定を受け取れなかった人に採用を継続する企業の情報を通知したり、そうした学内の就活継続者をリストアップして企業側に開示したりするといったもので、学生側からはチャンスが広がるとして好評だという。「せっかくいいものを持っていてもそれを企業に伝えることがうまくできない学生もいます。我々はこの取り組みを通じてその手助けを行っています」

 では、上記のような高い就職率を記録する要因としては他にどういったものがあるのだろうか。昨年、総合商社に就職した本学卒業生の杉本喜文(ひろみ)さん(平26社)は、「OB・OG訪問をする際に、如水会名簿を活用しました。他の大学と比較しても、非常に整ったシステムだと思います」と語った。加えて杉本さんは、本学のコミュニティのコンパクトさが就活で生きたと話す。「とある企業にOB訪問をした際、偶然にも担当の方と共通の知人がいることを知り、そこから話の雰囲気が一気に打ち解けました。おかげで、普段学生向けには話さないような内容も聴かせてもらえました」。本学ではそのコンパクトさゆえに「知人の知人は知人」といったことが往々にして起こるが、そうした世界の狭さは就活においても有利に働くことがあるようだ。先述の藤本さんは、「一橋は同窓意識が強いことに加えて、昨年度の就職者のうちの24%は、一橋出身としてはその会社への唯一の新卒社員となっています。ですから特に私大などと比べて卒業生の少なさで割を食うということはなく、大抵OB・OG訪問ができないといった問題はありません」と語る。様々な業界で活躍する一橋生の存在や整った同窓会組織のシステムは、一橋生の就活をよりよいものにしているといえる。

 ならば、こうした恵まれた環境において一橋生が注意せねばならないこととはどういったものだろうか。杉本さんは、就活を始めてからそれまで自身の属してきたコミュニティの偏りにも気づいたという。「インターンの際に理系学部出身の人たちと話す機会があったのですが、彼らの思考法や話しぶりはそれまで自分が学んできた世界のそれとはずいぶん異なっていました。文系学部しか存在しない一橋では、知らず知らずのうちに目や耳に入る情報が偏ることがあると思います」。また藤本さんは、近年の就活生の保守化を指摘した。「経済的に不安定な状態の続く昨今、一橋卒という学歴の優位性を活用しようとするあまり就活に対する姿勢が保守化している傾向があります。そうした考えが、革新を求める諸企業とマッチングしているかは疑問です」と語る。知らず知らずのうちに視野が狭くなってしまうことや、受け身の姿勢になってしまうことには注意が必要だろう。

 インタビューの最後に杉本さんは、これから就活を迎える一橋生に向けたメッセージとして「根拠のない自信と無知である自覚のバランスを大切にしてほしい」と語った。「就活ではつい気持ちのアップダウンが大きくなってしまいがちです。そんなときに何も持たない自分を支えてくれるのは、自分は絶対できるという根拠のない自信だと思います。加えて、自分は無知なのだという自覚をもって謙虚に学ぶ姿勢を持ってほしいですね。学生は社会人に比べて知らないことが多いのだから、その話には素直に耳を傾けるべきです」。一橋生の就活には、恵まれたこの環境を甘受することなく、積極的に未知の世界を学び、切り拓いていく姿勢が必要と言えるだろう。