Ⅳ 再築記念シンポジウム

 旧国立駅舎復原に関する連載の4回目は、11月16日に開催された再築記念シンポジウム『〜発見!まちの魅力〜』をレポートする。このシンポジウムは、旧国立駅舎の見どころや、この場所を起点にした「くにたちの魅力」を広めるために開かれた。

 夜の6時30分という遅い時刻の開演だったにもかかわらず、高齢の方から家族連れ、中高生まで多くの市民が参加する姿が見られた。受付では、8月に改訂された『国立駅周辺整備事業の現在』などのほか、『三角屋根でまちあわせ旧国立駅舎Historybook』と題されたブックレットが初めて配布された。会場はほとんど満席で、普段大学の中にいると気づけない「旧国立駅舎を気に掛ける人々」がこんなにも存在するのかと、改めて実感させられた。

 シンポジウムは、永見理夫(ながみ・かずお)市長のあいさつで始まった。平成18年に解体されて以降、駅舎がなかったことが、60年国立で育った身とすると不思議で寂しかったという。「4月から本格的に活用される駅舎の魅力を発信するにはどうすればよいのかを語り合いたい」と話した。

 永見市長によるあいさつのあとには、藤森照信東京大学名誉教授による基調講演が行われた。

 冒頭では、当初は大学通りに鉄道や飛行機を通す計画があったことが紹介された。続けて、アメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトが設計したような雰囲気を持つ雰囲気をもつ旧国立駅舎の建築史やその建築的な価値、そして旧国立駅舎と同じく街のシンボルである兼松講堂とその設計者である伊東忠太について話された。伊東が、大学の象徴である講堂を、海外に倣い中世風のロマネスクにあつらえている、という見解は考えもみなかったことだった。藤森名誉教授によれば、旧国立駅舎がそこに存在し、多くの市民が見続けることで、自らの時間的なアイデンティティを確認してきたという。旧国立駅舎のような「古い建築が街に誇りと歴史を与えている」との言葉が、こと印象的だった。所を起点にした「くにたちの魅力」を広めるために開かれた。

シンポジウムに参加する市民

 次いで、鈴木直文教授(社会学研究科)による講演が行われた。鈴木教授は、かつて市のまち育て検討部会に参加し、国立駅周辺の開発コンセプトを議論した経験を下敷きにしながら、国立という街のソーシャル・インクルージョン(※)について講演した。講演のキーワードは「遊び心」。街に住む全員がさまざまに創意工夫を積み重ねる「遊び心」をもつこと、そしてそれを認め合うことが、包摂的社会の実現につながると説いた。

 そのあとに、テレビ東京所属のプロデューサーで『モヤモヤさまぁ~ず2』などの人気番組に携わった祖父江里奈さん(平20社)が登壇した。『モヤさま』ディレクター時代には、「国分寺・国立」をロケ地にした回も担当している。講演では国立のさまざまな店や大学にまつわるエピソードをまじえ、国立への「愛」を語った。これらを下敷きに、さまざまな店が入れ替わりながらも、旧国立駅舎・一橋大学といった変わらない建物がトリガーとなって、国立という街に「エモさ」が生まれているかとまとめた。

 講演の後に行われた登壇者の3人と司会によるトークセッションでは、お互いの講演内容に関する質問をはじめ、旧国立駅舎の復原後の活用の在り方、お互いを許容しながら「遊び心」を取り入れるポイント、祖父江さんが大学時代に目にした大学の先輩の解体反対運動など、さまざまな内容が語り合われた。

 トークセッションの最後には、登壇者にコメントが求められた。祖父江さんは国立の三角屋根をもう一度見たいと思っていた人間として、「復活しただけでなく、旧国立駅舎を見たことがない人にも魅力を伝えられればなと思います」と話す。鈴木教授は「今まで『遊んで』いいと思っていなかった人を遊びに連れ出す、そうした機会をつくり出す場所になればいいなと思う」と応じた。

 旧国立駅舎の復元工事が終了し、オープンするのは2020年4月。JR中央本線の高架前には、赤い三角屋根がすでに佇んでいる。しかし、工事の終了は復原」の動きにピリオドを打つものではない。これから先、国立のひとびとがどのようにアイデンティティとしての「駅舎」を復原するかは、今後の活用の在り方にかかっている。

※……全ての人々が排除されたり孤立することなく、社会の一員として包み支え合い共生できる社会。