その昔、国立市にスカラ座という映画館があったことをご存じだろうか。しかし1986年に閉館してから現在まで、国立市内には映画館が無い。映画を見るという体験を自分の町で重ねてほしい。そんな思いから活動している市民団体が「くにたちに映画館をふたたび実行委員会」だ。

 映画好きの市民が集まり、活動は昨年秋から始まった。まずは地域での映画体験の機会を提供するため、12月に映画『フジコ・ヘミングの時間』を上映。約300人が参加し、くにたち市民芸術小ホールは満員となった。

 アンケートにはスカラ座の思い出も多数寄せられた。メンバーの木附玲子さんは「まだまだ国立で映画を見たという思い出を持つ市民は多い」と語る。

 とはいえ市内に映画館があったことを知らない人も多いだろう。実行委員会のメンバーも、ほとんどはスカラ座を生で見ていないという。メンバーの間瀬英一郎さん(平16社)は、映画祭を機に「くにたちに映画館をふたたび」という思いを若い世代にまで広め、長く続く映画館を作りたいという。

 10月5日から14日にかけてはイベント第2弾として、映画祭「くにたち映画館2019~語り愛たい10日間~」を市内・近隣の8会場で行う。今回は全10企画を予定している。

 幅広い層に来てもらうため、上映作品は多岐にわたる。映画『新聞記者』の藤井道人監督が手掛けた『青の帰り道』は、真野恵里菜さんや横浜流星さんなど人気若手俳優が出演する青春群像劇。LGBTをテーマにした『カランコエの花』や政府による言論弾圧を告発する韓国のドキュメンタリー『共犯者たち』といった社会派作品も並ぶ。

 オリジナル作品の上映もある。「えほんの映画館」という企画では、市内の小鳥書房から出版された絵本などを用いて、子ども向けに音声つき紙芝居映像を制作した。

 10月24日から市内で第9回平和首長会議国内加盟都市会議総会が行われることもあり、平和について考える機会の提供も意図しているという。上映作品には原爆投下後の広島を描いた『ひろしま』もある。

 映画を見るだけで終わらないということも、この映画祭の特徴だという。「感想を共有するところまで含めた映画体験を」と、上映後のトークショーやワークショップを準備中だ。まさにイベントの副題にもある「語り愛」が目指されている。

 今や自宅でも簡単に映画を楽しめる時代だが、メンバーの矢田冨士子さんは「多くの人と大きなスクリーンで映画を見る楽しみを感じてほしい」と話す。この秋は映画祭に足を運び、さまざまな作品を味わってみてはいかかだろうか。