――まず、お二人はなぜジェンダーを専攻したのでしょうか。
児玉谷:出身高がジェンダー研究の盛んな女子校で、総合的な学習の時間の選択科目に「ジェンダー」という名前の授業がありました。そこで、自分の疑問に感じたことが学問になると知り、大学でジェンダーを学ぼうと思いました。
山本:私は児玉谷さんとは違い、一橋大学の社会学部に入ってから、ジェンダー研究を知りました。幼いころから「女性」として自分が「家の中で遊ぶ」「ピンクのものを身に着ける」といった「女の子らしい」ふるまいを求められることに違和感があり、その延長で「ジェンダー研究も女のもの」という思い込みがあり、大学入学当時はジェンダー研究に対する嫌悪感がありました。しかし、とりあえずこうした思い込みを取っ払って研究の中に入ってみようと思ったのと、自分の「女らしさ」というものへの違和感はジェンダー研究というものと結びついているのではないか、という考えから、学び始めました。
――この本が執筆された経緯を教えてください。
児玉谷:ジェンダーを学ぶゼミに所属していると周りの人から「男が外で働き、女が家庭を守る」といったような性別役割分業や女性専用車両といった事項について、日頃身の周りの人から質問を投げかけられるということがあります。そうした質問に対してうまく答えられなかったり、それについて議論をしようとしたら、相手が自分の意見を譲らず険悪なムードになったりヒートアップしたりしてしまうといったことがゼミの休み時間に話題になったのがきっかけです。
毎年こうした話題が佐藤ゼミでは真剣に議論されており、悩んでいる割に同じような議論の反復になるため、それがエネルギーの無駄ではないかと佐藤先生に指摘されました。そこで、後輩に引き継げる想定問答集を作ろう、となったのが最初です。
佐藤先生が知り合いの編集者の方にそれを持ちこんだところ、編集者の方から、社会にこの本の内容を広めるべき、と言われ出版する流れになりました。
――この本を書くうえで気を配ったことなどがあれば。
児玉谷:新聞の投書欄やツイッターの議論を見ていて、ジェンダー研究の成果があまり世の中に広がっていない、ということを感じることがありました。なので、この本によって少しでも考える材料を社会に提供できればいいな、と思いました。何も知らない人に対して「こう考えるべきだ」と押しつけるのではなく、考えを開くように工夫しました。
特に「ホップ」では、問いに対して一番伝えたいことを、ジェンダーをよく知らない人にも分かるように書くのが大変でした。
児玉谷:アウティング事件を意識して書いたQ12については、学内の状況が変わることを望む者として、またジェンダー研究をしている者として、何を回答するかにかなり気をつかいました。
そのほか、性暴力については、1章分を丸ごと使って取り上げました。大切なテーマですが、普段はタブー視されがちなトピックなので。
――この本を書いたことでどのような反響がありましたか。
児玉谷:メディアから取材を受けることが結構あります。最近では、近隣の高校から、講義の依頼をいただきました。ワークショップのお願いもありました。
山本:難しい学術書を書いたわけではなく「超入門」と銘打ったことで、幅広い人にアプローチできたかなと思っています。ありそうでなかった、という反応を多くいただけています。
――この本を読んでジェンダー研究に踏み出す人もいると思います。そうした人に対してお二人から一言。
山本:ジェンダー知というのはとても興味深く、性に関してのみならず、あらゆる社会の常識に対して問いかける力を持っています。ぜひ打ち込んで、そこで得た知を人種や障がいの有無に関する問題などでも立ち返って考えることに役立ててほしいなと思います。
児玉谷:ジェンダー研究というのは当たり前を疑う学問だと思います。なので、学ぶと今までなんとも思ってこなかったことに対してすごく視野が広がります。その上で、自分はどうありたいか、他者に対してどう配慮すべきかについて想像を広げてほしいです。