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【特集】国立駅のこれから

 多くの本学の学生が利用してきた国立駅。その駅内外では新たな開発の動きが始まっている。この開発は、JRと国立市という異なる二つの担い手がそれぞれ 個々に進めているものだ。果たして、今求められる国立駅の姿とはどのようなものだろうか。各所への取材を通じて、国立駅のこれからを追った。

●駅に生まれた新しいスポット

 先月18日、国立駅では新たに駅の東側に併設するnonowa国立が開業し、記念イベントがとり行われた。同施設は主に生活雑貨を中心とした12の店舗が出店する複合型の商業施設だ。「nonowaは『武蔵野のわ(輪・和)』にちなんだものです」と名前の由来を説明するのは、国立駅の駅長であり、nonowa国立支配人の大内卓さんだ。

 「nonowa」は、JR中央線三鷹~立川間の高架化工事後に生まれた土地の有効活用を目的とした「中央ラインモールプロジェクト」の一つだ。既に当初の予定通り、西国分寺駅、武蔵小金井駅など4駅に同様の施設が開業しており、国立駅での開業を残すのみとなっていた。「この地域の緑・人・街をそれぞれつなげられるような開発をして、地域の魅力を発信していければ」と大内さんはプロジェクトの目的を語る。

 記念イベントには国立市の佐藤一夫市長も出席し、「この開業が国立駅、ひいては市全域にどのような影響を与えていけるかを模索することが行政の課題」と発言するなど、今回の開業に対する注目度は高い。来年以降には駅の西側にも同様にnonowa国立が開業する予定だ。「居心地のよい、リビングのような場所を目指したいというところがコンセプトとしてあります。市民の方々に、ここにあってよかったなと思われるような場所にしていきたいですね」と大内さんは抱負を語る。

●進む駅周辺の整備計画

 駅構内での変化の一方で、その周辺でも開発の動きが進んでいる。市は今後5年間で駅周辺を整備していく計画を発表した。この開発を構想し、主導しているのが市役所のまちづくり推進本部国立駅周辺整備課だ。課の係長である松平忠彦さんにその詳細について聞いた。

 まず松平さんが大規模事業として解説するのは、現在駅南口の駐輪場・駐車場となっているスペースに平成30年度建設予定の複合施設についてだ。「官設官営の施設の予定でしたが、予算等の観点から民間企業と連携して、テナントという形で一部に行政施設を入れていくということを考えています。行政としては多目的ホールや子供の遊び場など、これまで駅周辺になかった設備を設置する予定です」。また、現在開業中のnonowa国立のさらに東側の高架下スペースには、行政サービスの一部機能や図書の貸出などを行う市民利用施設も来年度末に建設予定だと言う。

 他にも北口駅前広場の再整備や、駐輪場の整備など多くの開発予定事業が存在する。その中でも特に注目が集まるのが、高架化工事に伴って平成18年に解体された国立駅旧駅舎の再築だ。

 特徴的な三角屋根が市のシンボルとして親しまれてきた旧駅舎はその再築が正式に決定し、平成30年度の完了を目指している。その後は展示スペースや観光案内所として活用していく予定だ。

 だが、旧駅舎再築には越えなければならないハードルも多い。現在旧駅舎を再築する予定の土地はJRが所有している状態だ。これにより、まず課題となるのが予算の問題である。再築のための費用に加え、用地取得の費用も合わせるとその予算は約7億円と試算されている。市はその内約1億円をふるさと納税で補う予定としているが、高額な事業費であることには間違いない。

 そして、用地取得交渉の問題も立ち塞がる。「もちろん土地を無償で譲っていただくということはできないのですが、なかなか踏み込んだ話し合いができていない状態です」と松平さんが語るように、市とJRの交渉は進展を見せていない。「事業の多くが複雑に関連していて、旧駅舎再築の詳細な目途が立たないと、駅南口広場の道路拡張といった他の事業の歯車が回らないという面もあります」と松平さんは胸中を明かす。

●交錯する地元住民からの声

 一連の開発の影響を良くも悪くも大きく受けるのは、駅の利用者である国立市民と地元商店街だ。彼らはこれらの動きをどう捉えているのだろうか。

 まず、nonowa国立の登場で懸念されるのが地元商店街の客足への影響だ。同施設の開業日、駅周辺では地元商工会と中央ラインモールの共同イベントが行われた。nonowa国立の支配人の大内さんが「地域の一員として市民の方々のお手伝いができればと思います」と話し、互いに何度となく話し合いを重ねるなど両者の間には友好的な空気が漂う。

 だが、商店街の置かれている現状は厳しい。国立旭通り商店会理事長の中栄修さんは、商店会が自ら再編計画を策定して国から補助金を受けたことを明かし、「nonowaは販売する商品の違いから脅威にならないかもしれませんが、そうでなくても苦しい現状に加えて、市の厳しい財政では援助は期待できません。商店街自身が改革して、特徴である人とのつながりをアピールしていくしかないでしょう」と語る。それに対し、松平さんは「複合施設に入るテナントに関しては、地元の商店街の方に配慮する形で選考していきたいです」と商店街の保護に尽力するとしている。

 また、駅周辺の開発の中で、多くの市民が待ち望むのが旧駅舎の再築だ。市が行った報告会においても、再築が決まったことに対する好意的な意見が相次いだ。さらに市役所を訪れた市民からは、「旧駅舎は時代を感じさせるモダンな建物で、もう一度見てみたい」。「財源の問題はあるかもしれないが、可能であるならぜひやってもらいたい」などの声がある。文教都市としての美しい景観を見守ってきた市民の多くにとって、旧駅舎の存在はなくてはならないものだ。

 果たしてこうした市民の声は現在、そしてこれからの開発の計画に十分に反映されているのだろうか。国立駅の将来像に関して「我々鉄道事業者としては鉄道という一つの交通手段を利用者の方に安心安全にご利用していただくのが一番です」と語る大内さんと「東京オリンピックの開催によって国内外から観光に来る方がいると想定して、市内外の方が交流できるような場にしていきたいですね」と語る松平さん。立場が異なるため一見全く違う回答になったが、国立駅周辺を国立市全体を象徴するような魅力ある場所にしていきたいという思いは二人に共通している。

 そして市民に関しても、その思いは少なからずあるに違いない。だが、地元商店街や旧駅舎再築に代表されるように、一筋縄ではいかない問題も駅周辺には多く存在する。JR、行政、市民の三者が、互いの意見のやりとりの場をいかに設けるか、そしてその中でいかに納得のいく合意形成をしていくかが今後の国立駅の駅づくりの課題と言えそうだ。