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【ヒトツ箸】 太田美幸教授(社会学研究科)

 6月某日のお昼どき。「お菓子をご用意してお待ちしています」という太田美幸教授(社会学研究科)の研究室に向かう。

手作りのパンとコーヒー

 書類棚から出てきたのは、北欧デザインのお皿だった。モノトーンのそれに乗せ、お手製のパンをふるまってくれた。院生時代にスウェーデンで食べた味が忘れられず、自分で作るようになったという北欧風のシナモンロール。カルダモンのさわやかな風味が特徴的だ。

 太田教授の専門は、教育社会学だ。教育に興味を持ったのは高校2年生のとき。知人が若者たちの暴走運転に巻き込まれ、交通事故で亡くなったことがきっかけだった。自身と年の変わらない人たちの行動が取り返しのつかない結果を招いたことに衝撃を受け、教育に何ができるのかを考えたいと思ったという。そこで、社会の仕組みや教育のあり方を学ぶべく、国立大で唯一社会学部があり、教育も学べる本学を志した。

 学部時代は教育社会学の関啓子ゼミに所属。本学女性研究者のパイオニアとして活躍する恩師に憧れ、3年次には大学院進学を考えた。しかし4年生の春、周囲の友人が就活を始めると、その姿が楽しそうに見え、太田教授も就活をすることに。企業でしか学べないことがあると感じ、損害保険会社に就職した。

 「知らないことばかりの職場は刺激的だった」と、太田教授は会社員時代を振り返る。災害や事故の補償をめぐるシビアな交渉の現場に身を置き、机上で学んだこととは違う社会の現実に圧倒されたという。
 また、ジェンダーを意識する機会も多かった。「総合職だったので、上司から『お前は男になれ』と言われたこともありました。でも私のことはみゆきちゃんって呼ぶんですよ。フェアじゃないと感じる場面も多かった」。こうした経験から問題意識が膨らんでいったという。2年で辞めて大学院に進もうと思っていたが、気が付くと4年間働いていた。

 社内の組織再編を機に退職して大学へ戻り、成人教育を研究テーマに据えた。博士論文では、労働運動と教育の関係に焦点を当て、スウェーデンが生涯学習社会になる過程を追った。現在は教育だけでなく景観やデザインと社会との関係も研究している。

太田美幸教授

 大学院に進学した時点で「朝が苦手だからもう会社員をやることはない」と思ったそうだが、明確に研究職を目指したわけでもなかった。知りたいことを自分なりに理解したいという一心で、今に至る。 「世間ではそういうのを研究というのかもしれないけど、気持ちは学生のまま。面白いなあと思うことをもっと深く理解したいと没頭しているうちに、幸運にもそれを続けられる職に就けたんです」

 

 自身の関心に従って道を選んできた太田教授。実は今でも憧れの職業がたくさんあるという。「空間を設計するのが好きなので、建築士や庭師に憧れます。あと推理小説が好きなので、翻訳家も。いつかチャレンジしてみたいですね」。尽きることのない興味の泉が、教授の原動力だ。