地域活性化に興味を持つ学生は、本学にも少なからずいるだろう。まちづくりサークルPro-Kや国立あかるくらぶなどのサークルも存在する。しかし「地域活性化」と一口に言ってもその内容はさまざまだ。その多様性を国立の農業を通して見ていく。


 国立駅から大学通りに沿って南へ進み、南武線を超えた先の「谷保地区」には農地が広がる。国立市で農業を営むのは215人。耕地面積は約44ヘクタール。小規模な農業経営が特徴だ。
 また、農地以外の資産を保有する農家が多く、そこからの収入が潤沢なため、新たな農業の方法などに積極的ではないと一部では言われている。

JA国立地区直売所

 その中で、先月新たにJA東京みどり国立地区直売所が谷保駅付近の大学通りに開店した。
 JAとは農業者を中心とした自助組織、直売所とは生産者が市場を通さずに農産物を直接販売する施設のことだ。
 国立市での直売所建設をめぐる歴史は長い。20年前、一度JAから建設の打診はあったものの計画は頓挫。国立の農家数が少なく、運営に必要な人数が集まらなかった。当時の国立支部の中心メンバーの息子らは「農家同士の派閥争いもあったらしい」と笑う。
 現在の直売所は、佐伯雅弘さん(54)らの中心運営メンバーと若手農家の総勢26名で運営される。佐伯さんは20年前に、富士見台支店駐車場で路上販売を始めた。その路上販売の規模が拡大し、今回の直売所建設へとつながる。
 直売所への参加動機は様々だ。佐伯さんら中心メンバーは「収入のため」と話す。

JA東京みどり国立地区直売所

 しかし、若手農家が見出すメリットは収入だけではない。最年少の遠藤充さん(38)は「市場に卸すときと違って、お客さんの反応を直接見ることができること」を挙げる。
 もちろん、すべての農家が前向きに直売所運営を受け入れたわけではない。直売所への不参加を決めたある年配の農家らは「青壮年部で固めたから入りづらい」「品物を運んだり回収したりと手間が多い」と語る。また、直売所設立というアイデアそれ自体も新しいわけではない。
 それでも、今回の直売所の開店は、国立の農業が踏み出した新たな一歩と捉えることができる。

新規参入のかたち 小野淳さん

 直売所が地元の若手農家から生まれた動きだとすれば、国立市の農村に縁のなかった人々はどのように「農」というテーマに関わっているのだろうか。
 国立市で畑を利用し、婚活イベントや忍者体験などさまざまなサービスの提供を行う小野淳さん(43)は、国立の農業への新規参入者の一人だ。神奈川県横須賀市出身、テレビ番組制作会社に勤務していたが、35歳で国立市の農業の世界に入った。現在は株式会社農天気代表取締役、NPO法人くにたち農園の会理事長を務める。
 小野さんが目指すのは「農業から遠い人に農業に興味を持ってもらい、関わってもらうこと」だ。そのことを通し、都市農業の新たな道を模索する。

小野さんの運営する「くにたちはたけんぼ」

 畑でのイベント運営や動物の飼育など、小野さんの農地の利用法はほかにあまり例を見ない。また、ある農家は「あの人はイベント屋だから、自分たちとは関わりがない」と語る。しかし地元農家からの強硬な反発はこれまで出ておらず、現在まで活動は続いている。
 このことは、小野さんの地域参加の成果と見ることができるだろう。国立市との縁が薄い小野さんだからこそ、地域の縁や伝統に敬意を払い、その一員になろうと努力している。消防団や谷保天満宮の例大祭を支える青壮年部への参加がその一例だ。
 また地元の農家に対して、自身のアイデアの受け入れを迫ることもしない。「自分は聞かれたら答えるだけ。農家の方々は自分の大先輩だし、新しいものを取り入れるかどうかはそれぞれの判断だから」

新規参入のかたち とれたの

とれたの店頭の野菜

 地域に入ろうとする小野さんとは対照的に、別のよりビジネスライクな形で農業に関わる人々もいる。本学まちづくりサークルPro-Kの一部門「くにたち野菜と地域食材の店とれたの」の学生がその一例だ。
 とれたのは、地元農家から野菜を買い取り、富士見台にある店舗で販売を行う。今年で開店12周年だ。毎朝集荷を行い、農家との交流を深める市民スタッフとは異なり、学生はほとんど農家との接触はない。その代わりに両者をつなぐのは、農産物の買い取りとその販売だ。小野さんのように地域のコミュニティに浸ることとはまた別の金銭を介した方法で、国立の農家と関係を取り結ぶ。

 


地域活性化の諸相

 「国立の農業」一つを切り取ってもそこには様々な関わり方がある。国立支店直売所のように、国立市の農村に地縁と血縁をもった人々が行う活動もあれば、小野さんのように新しく農業に関わる人の活動もある。そして、新規参入者の中でも農村との関係の取り結び方により活動は様々に分かれる。
 「地域活性化」の内容は多様性に富んでいる。そして、一筋縄ではいかないのは「国立の農業」だけではないだろう。