【退任教員インタビュー】伊藤るり教授(元社会学研究科)

昨年度末で本学を退任した伊藤るり教授(現、津田塾大)は、家事や介護分野の国際労働移動、「再生産領域のグローバル化」を検討し、再生産労働の国際分業などを取り扱ってきた。


――研究について
専門は国際社会学です。フランスでインタビューなどのフィールドワークを行い、移住家事労働者の生活と就労状況を調査してきました。
ジェンダー社会科学研究センター(CGraSS)の活動にも関わっていました。ジェンダー研究の次世代を育てるというのは、前任校時代からの課題です。CGraSS専用の研究室はありませんが、優秀な研究者が集まっています。総じて一橋の研究環境はよかったです。

――教員として、学生とのかかわりで印象に残っていることは
前任はお茶の水女子大だったんですが、共学のエリート校に行くということで少し戸惑いがありました。女子校では何事も女子がやらないといけないでしょう? でも、共学の学生は企業主導の社会における性役割に則って振舞っているように感じました。
就活に通じるものへの関心は高いのですが、人権や市民権を議論するときの反応が薄いなあとも。企業が主導する社会の価値観を、大学で再生産してしまうのはどうかと思います。大学では既存の価値観から距離を置いた思考が生まれないと。ただ男女問わず、批判的な思考を追究する学生もいましたから、そういう若者への期待は大きいです。

――ゼミについて
ゼミではフィールドワークをしました。最初は、学部生二人と浜松の在日ブラジル人コミュニティへ。その後は沖縄と韓国に交代で行きました。韓国では元「慰安婦」のハルモニが暮らす「ナヌムの家」にも行きました。卒業後、公正な社会を作るのに貢献してほしい、市民としての自覚を持つきっかけになればと思っていました。本の世界に浸り、評論家的態度で物事を考えるのではなく、フィールドに出て相手からのまなざしを感じたり、自分の相手へのまなざしを自覚したりする経験は大事です。フィールドで交流しながら学ぶのは記憶に残りますしね。

――一橋生へメッセージ
一つは、社会にいる自分の位置を自己反省的に考える力を培ってほしいということ。あとは、考えたことを実践してほしい。教条的に物事を覚えるのではなく、どうしたら自分の理念を達成できるのか考える。大学にいる間に日々の生活で実験してみたらどうでしょうか。