育児中の研究者に話を聞く企画の後編。大学内の育児環境、そして研究環境をよりよいものにするヒントを得るべく、今回は子育てをしながら大学に通う男性3人に話を聞いた。
①金さん(博商3・39歳)
妻:パートタイマー
子ども:4歳(幼稚園児)
本学商学研究科経営学修士コース卒業後、社会人を経て商学研究科へ。今年度中の博士論文提出を目指す。専門は産業組織、イノベーション。
②鈴木さん(博社4・44歳)
妻:大学教授
子ども:9歳(小学生)
本学言語社会研究科を退学後、再び研究者の道へ。他大学で非常勤講師をしつつ、博士論文を執筆中。専門は北米移民史。
③濱沖さん(博社6・29歳)
妻:専業主婦(共働きの時期有)
子ども:4歳(幼稚園児)・2歳
学部卒業後、本学社会学研究科に進学。現在は休学し、東京大学社会科学研究所の特任研究員として働く。専門は教育学。
文系大学院生、家庭内では?
社会では未だ男性が稼ぎ手として期待されるが、文系大学院生の男性は家庭でどのような立場にあるのだろうか。
博士課程進学前は「働き手」だった金さんの場合、進学後に妻がパートタイムで働き始めた。そのため、家事や保育園の送り迎えは主に金さんが行っている。現在の収入は金さんの奨学金と妻のパート代だ。育児などの出費に学費が重なり、妻ともめたこともあるという。「妻がパートに慣れて。あと僕が遊んでいるわけではないことを分かってくれたので今は落ち着いています」
濱沖さんは家で研究を進めつつ、大学の非常勤講師や夜間の中高教員などの収入で家計を支えている。結婚当初は金銭的な不安を抱いていたが、「世帯収入が多くないので授業料免除の対象や非課税世帯だった時期もあるが、今のところ思ったより苦労していない」。学部時代に交際を始めたパートナーは、「大学院に進んでもいつか企業に就職するのかなと思っていた。しかしここ数年で夫の周りの研究者が研究職に就くのを見て、夫も死ぬまで研究をするんだろうなと、実感がわいた。長い目で考えている」。
子どもを預けるとき
妻がパートタイムで働いている金さんは、普段から幼稚園の延長保育を利用している。どうしても遅くなる時は24時間対応可能な保育施設を使うそうだ。
大学院生の場合、保育園の申し込みに苦労することもある。濱沖さんは今年の申請時、在学証明書だけでなく1週間のスケジュール、非常勤講師など複数の仕事先の在職証明書を提出した。
その上、休学中でアルバイト中心の生活をしていた濱沖さんは「就学」ではなく労働時間の短い「外勤」扱いとなり、受け入れ児童を決定する際の優先順位が下がってしまったという。「育児をする大学院生への理解が進めば……」と濱沖さんは話した。
研究と育児 両立は必要?
鈴木さんいわく、「研究と育児の完全な両立に自分や家族を追い込むのは必ずしも得策でないと思う。私も娘が乳幼児の時に休学制度を利用して育児に専念した」。休学すれば育児に時間を割けるだけでなく、授業料が免除されるため金銭的にも育児に集中しやすい。
ただ、休学期間の上限は修士課程で2年、博士課程で3年だ。育児で休学期間を使い切ってしまえば、留学など他の理由で休学できなくなる。また複数の子どもを育てる場合は足りない可能性もある。
そのため鈴木さんは「休学期間に含まない『育児休学』があれば、学費を抑え、休学期間を残しながら大学に戻る場所を確保できる」と話す。研究と育児の「同時並行」を迫るだけでなく、どちらかへの専念も選べる環境づくりも必要なのかもしれない。
前後編を合わせると、男女とも家事・育児を引き受ける院生が多かった。パートナーや親族との関係、経歴や将来はそれぞれ異なっていたが、誰かを支えながら、そして誰かに支えられながら研究している人が多かった。大学の制度や環境も、そんな院生を支える一要素となれば、と感じた取材だった。