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【一橋卒/アニメ『エロマンガ先生』監督】竹下良平さんインタビュー

 アニメ監督。一橋大卒業者の中では、きわめて異色の経歴だ。ことし4~7月に放映された『エロマンガ先生』で初めて監督を務め上げた 、竹下良平さん(平19社) に話を聞いた。


――いつからアニメ監督になりたいと思ったのですか?

 中学生の時、『もののけ姫』が大好きで、宮崎駿監督に憧れていたんです。ただ、本格的に進路を考えだしたのは高校生の時でした。その時、親友の一人が映画制作のためにアメリカへ留学すると聞いて、自分も得意なことではなく好きなことを仕事にしなきゃと思ったんです。それまでは数学が得意で、大阪大の数学科に行って数学者になろうと思っていたんです(笑)

――それで、なぜ一橋大に?

宮崎監督って、知識量が物凄いんですよ。それで僕も社会学部で歴史や哲学を勉強したいなって。アニメスタジオが多い東京に出たいというのもあったんですけどね(笑)

――竹下さんは宮崎県出身と聞きました。一人暮らしでした? それとも寮暮らし?

一橋寮です。寮での生活から受けた影響は大きいです。寮にいると、毎日他の寮生と顔を合わせるので、受け身な性格でも心をこじ開けられるというか。お互い語りあったり、今思い出すとイタイこともたくさんありました(笑)

 あと、周りが自分の考えを持っているので、対等に渡り合うために自分も軸を持たなければ、と焦ることもあって。そういうのって価値観が不安定な大学生だからこそだと思いますね。ドラムの練習をしていた友達を見て、自分もアニメ監督になるために何かしなければと思い、大1の秋から絵を習い始めました。

――絵はどのように練習していたのですか?

 毎日3時間は自室で絵を描くようにしていました。漫画や風景の模写などですね。他には阿佐ヶ谷のデッサン教室に通ったり、井の頭公園で、1枚300円で似顔絵を描いたりしていました。

                      仕事するぞ!

――3時間を毎日!!……今更なのですが、アニメ監督とは絵を描く仕事なのですか?

 もちろん描きますが、監督は画面の絵作りや表現したいポイントをスタッフに伝える手段として絵を描くんです。僕は、監督の仕事とは、沢山のプロに自分のこだわりを伝え、協力してもらって思い描いたフィルムを実現することだと思っています。「みんなで楽しみながら、一緒に何かを作る」文化祭のようなノリが前から大好きで、これも寮生活の影響を受けている所ですね。だから、僕は絵を描くことが本業のアニメーターではなくて、人と関わって演出や話づくりをする監督になりたかったです。ほとんどの人がアニメーターから監督になるので、僕もそこから始めましたけどね。

――アニメ制作は本当に奥が深いのですね。その就職の時のことが知りたいです。

 4年生まではアニメ監督になる事のみを考えて、色々なスタジオに描き溜めた絵を送っていました。それでもなかなか前向きな返事が貰えなくて、秋になり半ば諦めかけていたところXEBEC(ジーベック)というアニメ制作会社から内定を頂いたんです。でも、いざこの業界に行く時になって、本当にこの道に進んでやっていけるのかと怖気付いてしまったんです。 アニメ業界は待遇や労働環境等、色々と厳しいですから。大学4年間、アニメ業界に入るための準備をずっとしてきたのに、一番大事な「この仕事で生きる覚悟」が出来ていなかったんですね。自分に失望しましたし、とても自信を失っていた時期だったと思います。考えても考えても、自分にとって「アニメーション」がどのくらい大事なものか答えが出せませんでした。でも結局のところ、答えが出せないからこそ、自分にとって「アニメーション」が何なのか知りたいって思ったんです。だからやってみようって結論に至りました。10数年経ち、自分は「アニメーション」が好きで、それと同時に表現の手段でもあり、アニメで「人が楽しむ作品」を創ることが目的なんだろうなって思っています。

――悩んでいた時に、他の業種を考えたことはなかったのですか?

 もちろん考えました。アニメ業界への就職に心が折れかけていた頃ですね。何かしてないと不安になったので、一般業界への就職活動も始めて、クリエイティブ繋がりでテレビ局を受けたり、化粧品メーカーに内定を貰ったりしてました。

――そんな大学生活で思い出に残っていることは?

 今思い返すとイタイことばかりでしたね(笑) 大学時代の日記とか純粋すぎて目を背けたくなります。でも、そのイタイ時間を共有できた友達がいるのが一番よかったと思います。また、当時付き合っていた女性と、夜に西キャンパスの池のベンチで話したことも良く憶えています(笑) 今思い返すと、自分も大したことはしていませんでしたが、学生のうちは、恥をかいたりとても勇気が必要なことでも、自分の心に大きな打撃を与えるようなことをした方が後々役に立ったなと思います。自分の心に嘘はつかずに、思ったことはすぐ行動に移すべきだと思います。

――ありがとうございます。では、アニメを作る時のこだわりをお聞かせ願えますか?

 常に最新作が代表作と言えるようにすることです。前作品を、話題面でも技術面でも超えるような作品を作り続けることですね。そのために、色々な作品を見た時に自分が感じた美しさ・感動などを、なぜそう感じたのか分析して自分の作品作りに生かすようにしています。

――最後に、『エロマンガ先生』でキャラが各々自分の夢を語るシーンがありましたが、竹下さんの夢は何ですか?

自分が考えているオリジナルアニメーションを形にして、たくさんの人に喜んでもらうことですね。映画を作ったりして、喜ぶ観客の笑顔を一日中眺めることが出来たらとても幸せでしょうね。そのために、今は完全オリジナルの企画を考えています。必ず実現させますよ。

竹下さんによる描き下ろしイラスト。銭湯とお笑いをテーマにした、現在構想中のオリジナルアニメ企画のイメージ。

 寮生活や様々な体験ではぐくまれた、自身の存在を含めて「アニメイト」する姿勢が、随所に見えるこだわりを生んでいるのかもしれない。そう思える取材だった。