THE IKKYO SHIMBUN

「みんな」で食べる朝ごはん

 夏休みの朝、国立市富士見通りにある建物の一階「Jikka」というスペースに、続々と小学生とそのお母さんが集まってくる。スタンプを押して席に着くと、白いごはん、豚汁、茄子とピーマンのみそ炒めが運ばてきた。ここはNPO法人くにたち夢ファームが運営する「子どもの朝ごはん」。長期休暇期間中の子どもやその家族のために朝食を提供している。

 全国にある子ども食堂では、家庭の事情などで満足に食事を摂れなかったり、一人で食べざるをえなかったりする子どものために、無料もしくは安価で食事を提供している。

 NPO法人くにたち夢ファームは昨年の夏から子ども食堂を運営する。もともとはDVや貧困に苦しむ女性の保護や援助を行う団体。その活動の一環としてお母さんが子どもと一緒にゆっくり朝ごはんを食べられる場を提供しようと、国立市子どもの居場所づくり事業補助金の交付を受け、「子どもの朝ごはん」を始めた。企画名は「子どもの朝ごはん」だが、子どもやその家族に限らず、誰でも朝ごはんを無料で食べることができる。食材の購入費用は補助金から拠出しているが、国立の農家から寄付された野菜でまかなえてしまうこともあるという。代表の稲川恵子さんは「支援とかそんな大それたものではなくて、単にごはんを食べに来て誰かと話す場所になればいいな、と思っている。だから、地域の人にも開かれているんです」と話す。

 実際に訪れるのは保育園児から小学生とその家族が多いが、近くで勤務する大人、国分寺や立川から自転車で通っている人もいるそうだ。小学1年生の男の子を連れて出勤前に立ち寄ったお母さんは「息子とは学区の異なる方と知りあえてママ友が増えた」と交友関係の広がりも魅力だと考えている。

 多様なのは訪問者だけではない。ボランティアスタッフも、栄養士の経験者や現在も学校給食で働いている人、かつてくにたち夢ファームで支援を受けた人と多岐にわたる。稲川さんは「来る人もスタッフも色々なバックグラウンドがあって、でもそれが良い。みんなにとって落ち着ける『実家』みたいな居場所にしていきたい」と語った。

 栄養士のような食の専門家がいることで利用者の幅はより広がっている。毎日約40人が朝ごはんを食べに来るが、中にはアレルギーを抱える子どももいる。ある親子は二人の息子が重度のアレルギー体質で、食事にはなによりも気を遣っていた。たまたま知り合いから「子どもの朝ごはん」の存在を教えてもらい訪ねると、細かくアレルギー品目を確認されたうえで、朝食を出してもらえたという。お母さんは、「ここでの食事が息子たちにとって人生初の外食になりました」と嬉しそうに話した。その後、アレルギー対応食についてスタッフにアドバイスしながら、今も利用を続けている。その交流からお手製ふりかけ4種も誕生した。蓋には材料が全種記載されている。子どもたちにも大人気で、作り方講座が開かれるまでとなった。

 国立市の小中学校の給食には除去食がなく、アレルギーがある生徒には食べさせないという方針をとっている。しかし、「子どもたちはみんなで一緒に同じものを食べたいと考えています」と理事の上村和子さんは話す。「『みんな』にはたくさんの人がいて、『みんな』で食べることを実現するのは本当に難しい。でもここではそれを目指しているんです」