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「伊藤屋」閉店 新工房へ

「30年間ありがとうございました」と書かれた店先の張り紙に、人々が足を止める。大学通り沿いの「西欧菓子 伊藤屋」は、先月16日、ビルの建て替えを機に店を閉じた。今後は新たな工房を桐朋高校近くに構え、焼き菓子の通販などを行う。長年国立市民に愛された名店の30年を取材した。 

伊藤屋は87年、谷保にオープンした。汽車ポッポ公園(谷保第一公園)に近く、店の前は近所の子どもたちがよく通った。オーナーシェフの伊藤公朗さんは、ショーウィンドウに並ぶお菓子を食い入るように見つめていた子どもたちの姿が今でも忘れられないという。谷保での13年の後、大学通りへ店を移した。

伊藤さんが目指したのは、自身が西欧諸国で学んだ食文化の提示だ。同じ素材でも違う調理方法を用いる、日本ではメジャーでない食材や食べ方を紹介するなど、バラエティに富んだお菓子の提供を心掛けてきた。「お客さんに食べてみたいと思わせたら勝ちですね」と笑顔をのぞかせる。

「やみくもに走った」という30年は、お客さんとの勝負の繰り返しだった。伊藤さんいわく、国立のお客さんは難しい。「贈答用に買う人も多く、生半可なものでは買ってもらえない。でも、こういうお菓子があると示せばついてきてくれる、そういう舌を持ったお客さんが多いです」

お客さんがついてきてくれたお菓子の一例が、開店当初に考案したくるみのパウンドケーキ「ノア」だ。当時の日本の洋菓子ではあまり使われていなかったくるみだが、伊藤さんは西欧諸国での修行経験からその良さを知っていた。今では人気商品となり、国立市が誇れる商品の証「くにたちStyle」に認定されている。

5月オープンを予定する新たな工房では、焼き菓子の通信販売が中心となる。現在67歳の伊藤さんは体力が落ちてきたと話すが、「余力のあるうちに次のステップに進みたいんです」と、新しいことを始める活力は健在だ。これからも伊藤さんとお客さんの勝負は続いていく。