昨年8月、本学ロースクール生がアウティングにより自死したことが報じられた。報道を受け、本学の学生支援を不安に思う人も多いと聞く。本紙では、「いま、大学でできること 一橋×LGBT」と題して、本学の現状と学内者がより過ごしやすくなるために実践可能な方法を探っていく。今回は、大学内の取り組みとして「セクシュアルマイノリティについて考えるランチ会」を取材した 。

ランチ会看板
西キャンパス法人本部棟付近の立て看板。ランチ会の情報を掲示している。

 ランチ会は昨年10月、日々の疑問や困っていることを気軽に話し合う場として始まった。現在は原則、毎月第2水曜日に職員集会所で開かれている。本学にはセクシュアリティに関して相談したい人が常に集まれる場所がないため、せめてランチ会は毎月開催できるようにと休業期間中の2、3月にも開催された。

 内容は毎回異なる。過去には、セクシュアルマイノリティの学生が自らの体験を語る動画を見る回や、教職員が日々の業務で対応に困った事例について相談する回などがあった。4月のランチ会は「セクマイとしての一橋」をテーマに、クエスチョニング(※1)を含む当事者限定で開催する予定だ。

 企画を務める太田美幸准教授(社会学研究科)とソニア・デール特任講師(同)によると、ランチ会を企画した背景には前述の本学ロースクール生の自死があった。デール特任講師は、「当事者である自分が受け入れてもらえたこともあり、セクシュアルマイノリティが過ごしやすい大学なのかなと思っていた。しかし報道を受け、動かなければと感じた」と当時を振り返る。

 企画者の両氏が「学内の人が自分の事を話せる場にしたい」と考えているため、参加者は院生を含む本学学生や教職員など学内者が中心だ。ランチ会の場では本名を名乗る必要もない。デール特任講師は「『言っても大丈夫』、『言うことが改善につながる』と思える、安心感のある場所にしたい」と意気込んでいる。

 また学生と教職員をつなぐことも開催目的の一つだが、学生の参加は回を追うごとに減っている。これについてデール特任講師は「学生同士のコミュニティができ、ランチ会に来る必要がなくなったのであれば、無理に来てもらわなくても構わない」と話す。

 学生同士のコミュニティとしては、昨年8月、非公認ながらセクシュアルマイノリティサークルORBが結成されている。ORBの学生に話を聞くと「活動の場がなく、依然セクシュアルマイノリティの学生のコミュニティができたとは言えない」と、デール特任講師が期待する状態とは言えないようだ。

 学生同士のコミュニティが整っていない以上、やはり学生の参加が少ないことは課題として挙げられる。参加できない理由としてORBの学生は、「ゼミ説明会と重なったり3限に授業があったりと、個人的な理由があった。また、会場が開けた場所だったため、やや行きづらいという印象を受けた」と話した。また、「アウティングへの不安を抱く学生もいるのではないか」とも指摘した。

 ただ「大学側との歩み寄りのため参加したいという思いはある」とも話しており、学生も参加しやすいランチ会の時間や場所について、いま一度考える必要があるだろう。

 アウティングに関しては、ランチ会は既に対策を取っている。参加には「ランチ会で知り得た個人情報を外部で話さない」という条件を設け、注意書きを配布し始めた。

 デール特任講師は、「教職員だけでは出来ないこともある。学生が声を上げてくれると大学もニーズが分かって動きやすい」と、学生の協力を求めている。現在、学生と協力して講演会などを企画しており、ランチ会側も学生との協調を意識している。

 現在は学生の参加者が少なく、記者自身も参加していて内容が教職員向けのように感じることもあった。

 しかし取材を通じて、学生側とランチ会側が歩み寄ろうとしていることは分かった。セクシュアルマイノリティは学生に限らないが、学生との歩み寄りは大学全体の雰囲気づくりに重要だ。なにより、ランチ会ができるまで本学にはセクシュアリティに関して話すために気軽に集まれる場所がなかったことを踏まえると、ランチ会の開催はより過ごしやすい大学づくりに向けた第一歩といえる。

 教職員に限らず、また学生に限らず、言いたいことがある人と意見を求める人をつなげる場ができ、拡大することで、より多くの人が声を上げられるようになる。そうして学内の制度が変わることもあるだろう。常時意見を交わせるスペースの確保をすぐに実現するのは難しい。そんな今だからこそ、ランチ会は大きな役割を果たしうる。

※1 クエスチョニング……自認する性を模索中の人。