応接間や美術室ではミステリの歴史や形式について語られる。「ミステリの歴史について語りたいと思います」と講義らしく大きな年表を黒板に書き始める北山氏。1841年の『モルグ街の殺人』(ポー)は事件、推理、意外な結末 というミステリの祖にしてほぼ全ての要素を備えた作品である、と説明したのち「なんやかんやあって……」と大きな矢印を伸ばし、一気に「今」まで繋げたので会場は思わず笑いに包まれた。ミステリの話題といえど小難しいトリックや様式美の話題はない。北山氏は親しみやすい謎や探偵を挙げて、様々な角度から楽しめるミステリの魅力を語る。〝本格〟ミステリとは何か、というミステリ好きが饒舌になるような深い問いに対しても、「大事件 推理と論理で 大団円」という北山氏自信作の五・七・五で分かりやすく説明してみせた。
後半、来場者はとうとう開かずの間に足を踏み入れる。ここで来場者は北山氏が用意した短編ミステリを読み、その解決編を予想する。「物理の北山」らしい物理トリックに気を取られていると北山氏の仕掛けた叙述トリックを見落とすようなつくりになっており、来場者は謎を解く達成感と罠にはめられる面白さを同時に味わった。
「長年ミステリというジャンルが独立して存在してきたのは、人間は謎を解かずにはいられないだからだ」と北山氏は話す。最後は「この講演をきっかけに、ミステリを読みながら、自分も頭をひねって謎を解く面白さに気付いていただけたら幸いです」と締めくくった。
北山猛邦(きたやま・たけくに) 推理小説家。物理トリックを好むことから「物理の北山」とも呼ばれる。代表作は『クロック城』殺人事件、『踊るジョーカー』、『先生、大事なものが盗まれました』など。