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【報道】新カリキュラム策定へ

 現在本学において、1年間を4つの授業実施期間に分ける4学期制、全学共通教育科目を中心とした卒業要件単位数の削減などを盛り込んだカリキュラム改革案が検討されている。本紙の取材や先月公表された本学の第3期中期目標・中期計画の素案により明らかになった。

 一連の改革案は、今月行われた教授会での2回目のサウンディング(対話型意見聴取会)を終え、引き続き本学の教育研究評議会などで審議されていくと見られ る。第3期中期目標・中期計画の素案には、今年度中に新カリキュラムを策定し、平成29年度から全面的に実施する計画が示されており、現在審議中の改革案 がこれに該当すると見られる 。

 複数の教員への取材によると、改革案の中では、4学期制の具体的な学期の日程や休暇の配分に付随して、講義時間 や開始・終了時刻等の再編成についても検討されている。また、中期計画案において示された英語コミュニケーションスキル科目の増加や他学部科目の必修化に ついても、改革案に反映されているという。

 卒業要件単位数に関しては、中期計画案で示された単位の実質化(※1)の徹底に向け、削減の方向で検 討が進んでいるという。特に全学共通教育科目の中では、第2外国語や「スポーツ方法Ⅰ」といった科目の非必修化が検討されているといい、現在第2外国語の 選択によって行われているクラス分けの枠組みに関しても、何らかの変更が行われる可能性がある。

4学期制の是非

 今回の改革案の注目の一つである4学期制。その導入は主にグローバル化の面で大きな役割を果たすものの、講義形態などに副作用をもたらす可能性がある。

 4学期制への移行は、国際化を目指す日本の大学での潮流となりつつある。東京大では今年度から全学部において4ターム(学期)制 が導入され、早稲田大や慶應義塾大などでも既に一部の学部で導入されている。

 4学期制導入の最大のメリットは、海外との人材交流がスムーズになる点にある。 欧米では9月始業の大学が多く、6月から7月にかけてはサマースクールが開催される。4学期制の導入には、こうした欧米の学期制に合わせて休暇を分散・延 長し、留学などによる人の出入りを活発化させる意図がある。また、学期数が増えることで柔軟な履修が可能となるなど、4学期制がもたらすメリットは多い。

 しかし、デメリットもある。東京大の前期教養課程では4ターム制導入の際、休暇期間の延長もあり、従来の1コマ90分講義から105分講義に変更された。 この措置について東京大2年のある学生は、「(昨年度までの90分講義に比べ、)105分講義は集中が切れやすく、特に一日中講義を受けていると後半は内 容が頭に入ってこない」と講義時間の長さに疑問を呈する。

 また、短期間でコマ数を消化するために、講義をゼメスター化した科目があった。これにより講義の進む速度が上がり、課題の量も増加しているという。「105分講義が週2コマ押し寄せてきて、復習と課題に追われ、課外活動をする気力も時間的余裕もない」

 ある教員によれば、現在審議段階ではあるが、東京大と同様の105分講義や一部科目のゼメスター化が本学で有力な案として検討されているという。

危機にある「教養教育」

 今回の新カリキュラム案の中でも注目されるのが、全学共通教育科目の削減だ。専門的な学部教育科目と両翼を担ってきた「教養科目」は様々な要因により、現在危機を迎えている。

 先月公表された中期計画において、英語コミュニケーションスキル科目の増加を筆頭に英語教育の拡充が示された。その影響もあり、第2外国語や「スポーツ方法Ⅰ」といった、英語科目以外の全学共通教育科目の必修が見直される形となっている。

 また、全学共通教育科目を担当する教員には、学内での立場が弱い非常勤講師が多い。こうした要素が積み重なり、全学共通教育科目は単位数削減の対象となった形だ。

 大学側は他学部科目の必修化により教養教育の維持を図るとみられるが、こうした再編の方向性を疑問視する声は多い。全学共通教育科目の担当教員であるA氏 は、「専門科目の土台には、広く体系化された教養教育(リベラル・アーツ)が欠かせないと思う」と話す。また、教授会のサウンディングでは、「他学部科目 の必修化により十分な教養教育が維持される、とするのは違和感がある」という意見が出ていたという。

置き去りにされる学内コンセンサス

 今回の改革案に対して、多くの教員や学生の声は届いていない。改革案は主に本学の教育研究評議会で審議されているとみられるが、その参加者は学部長や副学長 、部局長と一部の教員のみである。

 本学の中期計画案によれば、こうした一連の改革案の大枠の議論は遅くとも今年度中に終了する。そして、平成29年度からの実施に向けた準備が始まっていくと予想される。

 しかし、審議に際し、一般教員が発言する機会は計2回のサウンディングにほぼ限られ、学生からの公式な意見聴取などの機会は現時点で設けられていない。加 速する審議に対し、A氏は「実際に講義を担当する自分たちの知らないところで話が進んでいるように感じる」と疑問視し、同じく全学共通教育科目の担当教員 であるB氏は、「三者構成自治(※2)の存在はもはや忘れられている」と話すなど教員からは冷ややかな意見が多い。

 改革案の審議が急ピッチで進む背景には、中期計画を基にした改革の達成度が国よって評価され、それにより、運営資金の約半分を占める運営費交付金の支給額が左右されるという国立大の現状がある。

 しかし、改革を第一に考えるばかりに、それによって発生する弊害に目をつぶり、学内の議論が置き去りにされていないだろうか。東京大学新聞社によれば、東 京大の4ターム制導入の際、学生の意見が聞き入れられず大学側の意向のみで決まったため、学生からは不満が続出したという。本学の学生も、自分たちの学生 生活に大きな影響を及ぼす改革案に対し、検討中の今だからこそ、自ら考え、意見を述べるべき状況にあることは間違いない。


※1単位の実質化……学生に簡単に単位を取らせるのではなく、単位にふさわしい学習をさせること。大学設置基準では、一単位につき講義と自習時間を併せて45時間の学習が求められている。

※2三者構成自治……大学運営のあり方は教員・学生・職員の三者の意見に基づいて決定されるべきであるという考え方。戦後、本学ではこの考え方が主流とされてきた。